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ハルノヒザシ
愛するということ(三好視点)
「もう、いい…。帰りなさい」
「…失礼します…」
屋上の一件後。
俺と前田は、諦めたような表情で言う教師に頭を下げて、指導室を後にした。
ひとり、特別校舎の空き教室でぼんやりしていた俺が、前田からの連絡を受けて、保険医と教師と屋上に着いた時。
屋上に居たのは前田と藤堂だけだった。
藤堂はどう考えても人為的にボコられて倒れていて。一緒にいた前田は泣いていた。
いくら二人きりで居たとは言え、俺も教師も前田がそんなことするなんて考えられる筈もなく、藤堂が病院に運ばれた後、前田は指導室で宥められながら、何があったのか問いただされたが、前田は静かに泣くばかりで何も言わなかった。意識があった藤堂も同じく…。
相変わらず、何も役に立たなかった俺は、涙も枯れ果てたようにとぼとぼ歩く前田にかける言葉もない。
学校を出るともう六時半を廻っていたので、真っ暗だった。外灯の灯りだけが闇を照らして。空気も冷たくて。とても静かで。
俺と前田が歩く音だけが響いている。
あんなことがあった後なので、沈黙がとてつもなく重くて。俺が口火を切っていいものか悩んでいると、「みよし」とぽつりと前田が言った。俺は隣を歩いていた前田に、視線を移す。

「藤堂君、三好にとても感謝してたよ。優しくしてくれて、ありがとう。嬉しかったって。裏切ってごめんなさいって」

泣きはらした顔に、俺を気遣うような色が戻ってきていて。こんな時でも、と思うと、肝心な時に逃げ出してしまった自分が心底情けなかった。俺が恨まれていた…せいなのに。俺に感謝される筋合いなんて…。

「藤堂君、飛び降りたんだ。屋上から」

っ…と俺は絶句する。どういう、ことだ。だって、藤堂は屋上に居た。てっきり俺は、弟君辺りが藤堂をしめて、それを見た前田がショックを受けたのかと…。
藤堂が自殺を図るなんて…。飛び降りには失敗したようだけど。何に追い詰められていたのだろうか。全く、全く気付けなかった。
「ご、めん…きっと、俺が藤堂に恨まれてた、から…」
「違うよ。三好のせいじゃない。俺のせいなんだ。全部。衛士に言われて、俺を傷つけたかたって言ってた。衛士の役に立てるんなら死んだっていいって」
あ…、とその言葉に、俺は、ようやく理解した。藤堂が何故戻ってきたのか。藤堂が何故俺を受け入れたのか。何故、藤堂が前田に絡んだのか…。俺への当てつけかと思っていたのに。理解するのが遅すぎた。多分、理解など、出来なかった。ただの、俺の自己満足だった。藤堂に利用されて、前田を傷つけるのに一役買っただけだった。
「俺…怖いよ。すごく、怖かった…。俺と藤堂君の関係はそれしかなかったのかって。以前屋上で話した時は、普通だったのに…。いくら衛士に言われたからって…。、衛士は、面白がりたいだけなのに、そのために死のうとするなんて。おかしいのに…。俺は藤堂君を止められなかった。話し合う時間も、藤堂君を思い留まらせる言葉もなくて。ただ泣いてただけだった。俺が存在しているだけで、藤堂君は死のうとしたんだ」

ぽろぽろと前田の瞳から涙が溢れてくる。
「一番怖いのは、こんな出会いじゃなかったら、友達になれたのかもしれないって。他の道があったんじゃないかって。そう思うと怖いんだ。俺のせいで全て無くなってしまうところだったから」
ひゅっと前田が息を吸った。
「藤堂君、俺にもごめん、って言ってくれた。でも、その言葉を聞けたのは、俺がなんかした訳じゃなくって…俺は本当に何にもできなかったんだ。俺が何もできないせいで、全てなくなるところだったんだ」
前田は俯いて、顔を抑えた。
「三好も、ごめん…。藤堂君、俺さえいなければ、三好にあんなことしなかったと思うんだ…。三好と藤堂君は、友達になれたと思うんだ。夏だって、あんなことしなかったと思うんだ…俺が、居なければ…」
ひっく、ひっくと前田がしゃくりを上げる。
「思うのに…。俺さえ居なければって、思うのに…。でも、どこかで、また元通りに三好と過ごせるって思った自分がいるんだ。藤堂君は、大けがしたのに…俺が居たせいで…」
人の不幸を喜んでいるんだ。こんなの、衛士と同じだ…、と前田は絶望したような声で言った。
「三好…、俺、部屋替を申請しようと思う…。こんな気持ちのまま、三好と居られない…。三好といると、きっと俺、喜んじゃうから…。藤堂君の不幸を喜んじゃうから」
突然の前田の宣言に、俺はショックで眩暈がした。
前田が手袋をしていなくて冷えた手で、俺の手をとる。
「勝手を言って、本当にごめん…。今まで、ありがとう…三好。本当に…ごめんなさい…」
寒くて前田の頬が赤くて。吐く息が白くて。俺を見る眼差しは涙でぐちゃぐちゃだった。
握られた手が、離される…。



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あきゅろす。
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