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ハルノヒザシ
6・(藤堂視点)


(痛い……)
全身に走る痛みで目が覚めた。
(あ、生きてる……)
ゆっくり目を開けると、半分赤い視界と、半分見える青空。
ぽたり、と何かが頬に落ちるのを感じた。
誰かに膝枕されているのに気づく。あの恐怖は感じなかった。
動かすのすら痛い眼球を少しだけ横にずらすと、半分赤い視界と、俺を覗き込みながら泣いている白いシャツの人がいた。
「春日、くん……」
ぽろぽろ、春日君の涙か顔に落ちてきて。痛み続ける顔面が一瞬そこだけひやっとした。彼のブレザーが僕の身体の上に掛けられているのに気付く。
「ごめん、ね。藤堂君。ごめんね」
春日君の手が、僕の頬を摩る。
どうして、君が謝るの?
ああ、そっか。さっきの人ってもしかして。海ちゃんが言っていた…。ああ、本当に似てないなあ。おっかない。
それにしても、人から撫でてもらったのなんて、何時ぶりだろう。
痛くなくても気持ちいいや。
こんなに全身痛いのに。なんだか暖かい気持ち。優しい気持ち。十夜君と一緒にいた時のような。
これが、情ってやつなのかな。
さっきの彼も、こんな優しい人。傷つけようとしたらそりゃ、怒るよね。
「すぐ、先生、来るからね」
「うん…、ありがとう…」
さっきまで、ただ傷つけようとしていた相手の涙。
いつの間にか手袋が無くなっていた左手を、彼の頬へ伸ばす。
濡れた彼の頬は柔らかかった。彼も僕の頬を撫でる。
「春日くん、ごめん、ね…」
「大丈夫…だよ…。生きてて、よかった…もう、あんなこと、絶対に…しないでね」
「うん…、ごめん…」
「いいよ…俺は、大丈夫だから…」
「…優しいな、春日君。三好君や海ちゃんが、君のこと好きな訳、わかった気がするよ。ああ、本当に三好君には、悪いこと、しちゃったな…僕を、許して…くれない、かな…」
話すと、息が乱れて、ごぼっと血が昇ってきた。
もう、話さないで、と春日君はまだ泣いている。
僕は目を閉じた。

ねぇ。海ちゃん。海ちゃん。
僕わかったよ。どうして、君が春日君を忘れられないのか。
この彼の優しさみたいなのが、欲しかったんだよね。
海ちゃんはきっと、そんな訳ねぇだろっ、泣き叫ぶのが面白いんだって笑うだろうけど。
僕も海ちゃんも、きっとまともな、情を向けられたことがないから。
たくさん持ってる彼に、本能的に惹かれちゃうんだ。でも認めたくないから、眩しくて、羨ましくて、妬ましくて仕方ないんだ。歪んでしまった僕たちには。
三好君もきっとそう。さっきの彼もきっとそう。
僕達は、優しいという彼の強さが羨ましくて、惹かれて、尊んで、もっともっと欲しくなって、離れられなくなって、恋をして、愛して。
すごいなあ、春日君。すごいなあ。どうすれば、人をこんな気持ちにできるんだろう。
君はどれほど深い情を持っているんだろう。
僕にはとてもできないよ。自分のことだけで精一杯だから。
もし、海ちゃんじゃなくて、君に先に出会えてたら。
僕は、こうはならなかっただろうか。
三好君みたいに、優しくなれただろうか。
………。
んーん海ちゃん。僕は君が嫌いな訳じゃない。今も大好きだよ、一番。
僕のことをわかってくれるのは、きっとこの世で海ちゃんだけだったろうから。
一番、大好きだよ。これからずっと。だから。次会ったら言うね。

春日君にはもう会わないほうがいいってこと。

きっと海ちゃんは春日君を殺してしまった後に、それに気づくから。取り返しがつかなくなってようやく、かけがえのないものがわかるから。
触れてはじめて、わかるものに。
海ちゃんが傷つくのは、僕見たくないよ。
春日君がいなくなるのも、僕嫌だよ。
ねえ、海ちゃん。
春日君の手とっても優しいよ。
いつか君も、この手に触れることができればいいのに。
………。
………。
………。
海、ちゃん。
また、会いにいくね。何回でも。

階段を誰かが急いで登ってくる足音が、春日君の膝越しに伝わってきた。



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あきゅろす。
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