[携帯モード] [URL送信]

ハルノヒザシ
5・(藤堂視点)
一瞬だった。
全ての内臓が引っ張られるような感覚がしたと思ったら、すぐに真横に身体が引っ張られた。
予定していたより早く、全身に衝撃。
落ちている最中に、校舎内にだれかに引っ張り込まれたんだと気付くのと同時に、素早く馬乗りになった影に思い切り殴られていた。殴られた頬の痛み。床に叩きつけられた後頭部の痛み。噛んだ口内の痛み。広がる血の味を感じる間もなく、もう1回、2回、3回と連続して、衝撃。
「てめぇ、舐めた真似すんじゃねぇよ」
襟首を掴まれ、強制的に合わされた視線の先には、見たことない学ランを来た男。
怒りで燃える瞳と目があった瞬間、ぞっと全身に恐怖が駆け巡る。
痛みに馴れたこの身体でも感じる、触れてはいけない逆鱗に振れてしまった本能的な恐怖。
普段は気持ち良いと感じる痛みさえも、強烈な熱さと苦しさを感じた。
「なん、とか、言え、よ、コラ!」
次は腹に重い衝撃。溜まらず口の中に溜まった血を吐きながらえずくと、また何発も顔を殴られた。
もう既に力が入らなくなっていて、倒れこみそうになると、再度乱暴に引き戻された。
「殺す、てめーは殺す」
同じ人間なのに感じる圧倒的な差。きっとこの人は鬼だ。
さっきまで、死ぬことなんてなんとも思っていなかったけど、今初めて、死、というものが実感できた。

死ぬ、殺さ、れる。この人が誰かもわからないまま。

(ああ、僕はこうやって死ぬんだったのか)
ああ、怖い。痛い。
海ちゃんに褒めてもらえない。
ここでこうやって殺されるんなら、あの時海ちゃんに殺してもらえばよかった。
ああ。でも。
彼も、悪くない。
僕にはお似合いだ。鬼に殺されるなんて。
きっと罰があたったんだね。十夜君や春日君に酷いことしたから。

お父さん、お母さん…海ちゃん…。
さよなら、十夜くん。

また、顔面を殴られた衝撃で、頭を床に打ち付けるのと同時に、ぶっつり闇が来た。




[*前へ][次へ#]

43/55ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!