[携帯モード] [URL送信]

ハルノヒザシ

立っていたのは、
立っていたのは…
夏だった。
数日振りに会う学ラン姿の弟は、無表情で俺を見据えて立っていた。
俺は気付く。
夏の右手が誰かの襟首を掴んで引きずっていることに。
「あ……」
いろんなことが起り過ぎて声すら出ない。
夏は、その人を引き擦りながら大股でこちらに近づいてくる。

「はい、兄貴。殺していいよ」

乱暴に投げ出されたその人の顔を見た俺は息を呑んだ。
さっき身を投げ出したはずの彼。
落ちた時の傷なのか。殴られたように顔が腫れあがって、至る所から血を流している彼の姿は凄惨だった。床に投げ出されても、目を閉じたままピクリとも動かない。
「あ、あ、死んで、るの……」
「生きてるよ、多分。ちょっとやり過ぎちゃったけど」
「だ、って、藤堂くん、落ちた……」
「落ちてないよ。俺がすぐ下の階にいて、掴まえたから」
「で、も…、どう、して、こんな…」
「だから、俺がやったんだって。こいつ兄貴の前でふざけたことするから、ついカッとなっちゃってさ。ま、元々潰してやろうとは思っていたんだけど。まだ、殴りたりないけど、兄貴もムカついてると思って持ってきたんだ。はい、殺していいよ。後は俺がどうにかするから」
淡々とした態度の夏の前髪を、風が揺らして。藤堂君の髪を揺らした。俺の髪も揺れる。
「ねぇ、すごい、血が、出てる。死んじゃう、よ……」
「ああ、死ねばいいね。どうすんの、兄貴やらないなら、俺がどっか捨ててくるけど」
そう言いながら、夏は藤堂君の身体を乱暴に蹴った。今まで動かなかった俺の身体が弾かれたように動いて、夏から藤堂君をかばう。
「やめて!もうやめて!保険室の先生呼んできて!」
「嫌だね。ほっとけよ、そんな奴。助けたって次なにするかわかんねぇ」
「お願いだから!!」
「好きにすれば。じゃあね」
冷たく言って、夏はくるりと背を向けた。
そのまま扉の奥へと消えていく。

また二人、俺は屋上に取り残された。

俺は携帯を取り出して、彼に連絡をしてから、辛うじて息がある藤堂君の身体に手を伸ばした


[*前へ][次へ#]

42/55ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!