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ハルノヒザシ
復讐するは我に有
「藤堂君っ!君はっ!!」
俺は眼帯を拾って付け直していた藤堂君に、詰め寄って叫んだ。
藤堂君は、そんな俺を全く意に介していないようで、ゆっくりと黒手袋をはめ直す。
「ねぇ、聞いてるのっ!」
「ギャラリーが増えてきたね。春日君。場所変えようか」
そう言って、のんびりと歩き始める。俺は少しの間、余りの怒りで頭がくらくらして、その場に立ち尽くしていたが、見失わないようにその姿を追った。

「んーいい天気だね」
やってきたのは屋上。俺と藤堂君が出会った場所。抜けるような高い青空が広がっていた。
藤堂君は気持ちよさそうに伸びをしながら、奥の方へと歩いて行く。
こないだ俺とおしゃべりした場所で、彼は立ち止まって、フェンスに手をかけて空を見た。
「春日君、今日も飴持ってるの?ちょうだい、いちごみるくがいいな、僕」
にこりと笑いながら、振り返る彼に、数メートルの距離を取りながら俺は叫ぶ。
「そんなことは今どうでもいいよ!藤堂君、さっきのはどういうこと!なんで三好にあんなことするの」
「あは、あれ?冗談だよ、冗談。まさか泣いちゃうなんて思わないんだもん。ドン引きだよね。ああ、初めてだったかな?」
十夜君ああ見えてメンタル弱いからな、ずっとぼっちだったもんね、仕方ないか、と俺の友人に悪意を向ける藤堂君。にこやかな表情に人の嫌な部分が詰まっているようだった。
冗談…仕方ない…ふざけるなっ!!そんなくだらないことで、三好を傷つけたのか。三好の優しさを裏切ったのか。
こんなに腹がたったのは、生まれて初めてだった。
血の気がさーっと引いていく音。頬が、唇が、喉が、指が、足が、急速に冷えていく。
目の前の相手が、腹ただしくて、憎くてどうしようもない。どうにかして傷つけてやりたい。飛びついて力づくでも話すのを止めさせたい。手が震える。気持ちが悪い。心臓が痛い。胸がおかしい。それでも君が憎い。
激しい憎悪が、吹き上がってきて、止まらない。
「冗談で、人を傷つけていいと思っているのか」
「ははは。なーに。あんなのスキンシップだよぉ。それに十夜君は僕のだもん」
「三好を、もの見たいに言うなっ!!」
「それにしても、十夜君べそかいた顔も可愛かったよね。そう思わなかった?春日くん。僕、なんかぞくぞくしちゃったよ。ふふ、十夜君が僕を犯してくれないならさ、僕が十夜君犯しちゃおっかな。俺ネコだけど、十夜君相手ならいけそうだよ。ああ、十夜君僕のだったね。そうしよう」
「黙れっ!絶対そんなこと許さないっ!」
「十夜君が僕にしたことを思えば、それくらいはしてもいいけどな。そう思わない?春日君」
「三好はそんなことしないっ!」
「したんだよ。うふふ。それに君に何ができるっていうの?そんな真っ青になっちゃってさ。体調悪そうだね。今度は保健室連れて行ってあげようか?」
藤堂がせせら笑う。
「うる、さい…俺のことはどうでもいいっ!それより三好に謝ってよ」
「ごめん。僕にはできそうにないから。春日君。謝っておいて」
どうしてだよっ!と俺はまた叫ぶ。あんなことして。目の前で微笑み続ける彼の気持ちが、行動が、前と同じく全く理解できなかった。
藤堂君が、フェンスに手をかけた。俺を見る。
「聞いていたのと全然違うな。春日君。海ちゃんは君の、どこが良かったんだろう」
「海、ちゃん…?」
「衛士君だよ。衛士、海斗。僕の一番好きな人」
(エ…ジ…)
唐突に出てきた二度と聞きたくない名前。鈍い俺の頭に、夏が言葉がようやく蘇った。
「海ちゃんは、えらく君にご執心だよ。うらやましい、な…」
少しだけ目を伏せて、寂しそうな顔で藤堂君は言った。
その表情に俺は、怒りながらも、少し頭が冷えた。
もしかして、藤堂君、本当は…。いい子なんじゃ…ないのかな。
なんで、俺たちはこんなことしているのかな…。
藤堂君の声に、さっきまでの嘲笑うような悪意は、もうなかった。



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