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ハルノヒザシ
17
(ふう、また今週も終わりか…)
金曜の放課後。俺は、鞄に教科書を詰めながら、軽く溜息をついた。
(夏は何をしているんだか、連絡ないし…)
夏が出て行ってしまった晩。俺は夏を必死で追いかけたが、夏の持久力に敵うわけもなくあっと言う間に見失ってしまった。その後、鞄と学ラン持って部屋まで行ったが、帰っていないし。メールや電話もしたが、返事がない。
(今日は行ってみよ。図書委員会もないし…。明日街でも行かないかって誘ってみよ。スニーカー買ってあげるって)
そんなことを考えている間に帰りのホームルームも終わり、後ろから椅子から立ち上がる音がした。
「じゃあ、な」
「じゃあね、三好」
相変わらず三好がすまなさそうな顔をしながら、俺より先に教室を出ていく。平日は教室で毎日会えるが、週末はきっと会えない。
(ふう、俺も帰りますか)
考えていると悲しい気持ちになるのはわかっているので、通学用のリュックを背負いながら俺もいきおいよく立ち上がる。
決めた。抹茶の蒸しパン作って、カレー作って。今日は夏の部屋でギリギリまで待たせてもらおう。
今日は顔見るまでは帰らないぞ。
夏は炭酸ジュースが好きだから、ジュースも買っていこうかな、と普段はまっすぐ帰る道を寄り道するために、逆方向に曲がって購買へ。遠目からでも、放課後の購買は、生徒で賑わっている。
てくてく購買まで後三歩というところまで近づいたその時、ちょうど出てきた誰かとぶつかりそうになる。
「あ、ごめん、なさい」「ごめん」
その声に俺は顔を上げた。
三好だった。
三好が目を丸くする。
「十夜君ー。待ってよー」
続いて出てきた藤堂君が俺の存在にすぐに気づいた。少しだけ意地悪そうに眉を寄せる。
「なあに。追っかけてきたの?今日は」
俺は違うよ、と首を振る。
「ダメだよ。十夜君、僕のって言ったでしょ」
唇を尖らせた藤堂君が三好の腕を抱いて、三好の身体に身を寄せて俺を見る。
三好は一瞬嫌そうな顔をしたが、すぐに諦めたような顔で何もしなかった。
俺は三好の考えを尊重したいが、なんだか二人の姿を見ているのは嫌で。
邪魔したね、と俺はジュースを諦めて、元来た道を戻りかける。
「春日君。三好君はね、ずーっとずーっと僕といてくれるって。僕、幸せだよ」
帰りかけた俺を、藤堂君の声が後ろから追ってくる。
「なんでだと思う!ねぇ、春日君。それはね、僕をこうしちゃったのが十夜君だからだよ」
俺の足元に、眼帯と手袋が投げ捨てられた。
俺は思わず振り向く。
藤堂君が右手で、前髪をかきあげていた。
俺は、かろうじて声を出すのを抑える。
藤堂君の隣で三好はショックを受けたような、青ざめた顔をして、藤堂君を見上げていた。
あはははは、と藤堂君が笑う。
「ひどいよねぇ。僕の目も指も、十夜君のせいで無くなったんだ。痛かったよ、本当に…。僕は友達だと思ってたのに。十夜君は僕を裏切ったんだ」
だから、十夜君には責任取ってもらうんだ、一生ね、と藤堂君は三好に笑いかけた。右手で三好の顎を掴んで、上に向かせる。
そして、三好にキスをした。
藤堂君の舌が、硬直して呆然としていた三好の唇に滑り込む。
世界が止まってしまったような気がした。

俺も、周りにいた人も、ショックで動けなかった。目が離せなかった。
ちゅく、という水音。はっとしたように三好が藤堂君を付き飛ばす。
反対側の廊下まで、数歩よろめいた後、三好は顔を真っ赤にして、口元を抑えて震えていた。耐えきれないように、踵を返して走り出す。
すれ違いざま、その目元から、一筋、涙が零れ落ちたのを見たとき、俺の意識はようやく覚醒した。
「三好っ!!!」
振り返らずに走っていく彼の背中。追いかけようとした、俺の背中に、「あはは」と嘲笑が降ってきて、俺はその場に踏みとどまり、あらんかぎりの憎しみをこめて、彼を振り返った。


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あきゅろす。
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