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ハルノヒザシ
14(三好視点)
授業が終わり、食堂で藤堂と夕食を食べて、部屋に戻りシャワーから上がると、藤堂が机に突っ伏して寝ていた。
薬の残数を確認すると、どうやら飲んでいないようなので、俺は藤堂を揺り起こす。
「藤堂、藤堂。起きろ。布団で寝ろ」
「ん…、そだ、ね…」
夢、見てたよ…と藤堂は眠そうな目をこする。
もう一回病院に戻る夢、と藤堂は俺が差し出した水と薬を大人しく受け取る。
「僕が、病院に戻ったら、十夜君、お見舞い来てくれる?」
「お前が変なことしなきゃ、病院戻る必要はないだろ」
俺が、させないしな。
頭をタオルで拭きながら、俺はコーヒーを飲もうと薬缶に火をつけた。
「僕も飲みたい」
「カフェインと薬って飲んで大丈夫なのか?」
のそのそと藤堂がやってきて、俺の手元を覗き込む。
そりゃ飲みたいんだったら作ってやるのはやぶさかではないが、藤堂はもう薬を飲んでしまったので、俺は逡巡する。こんな時前田だったら、カモミールティーやら葛湯やらを淹れてやるのだろうけど。もらいに行くのは流石に気が引け過ぎてできない。
「自販機でなんか買って来てやろうか。ホットレモンとかあっただろ」
「んーえへへ。じゃあ、甘えようかな」
藤堂がふにゃけた面で言うので、俺はコーヒーをドリップしている間に、一階まで降りて、飲み物を買いに行く。
ホットレモンを買おうとすると、前田がいつも飲んでいるミルクティーがあって。一瞬こっちにしようかとも思ったが、そのままホットレモンを買って部屋に戻った。藤堂の部屋に入る瞬間、藤堂と同じクラスの奴とすれ違って、不審そうな目を向けられるが、気にせずに部屋に入る。
「ほらよ」
「わあ、嬉しい…、ありがとう」
「飲んだら寝ろよ。顔色悪い」
藤堂の前に座って、俺もコーヒーに口をつける。
藤堂が飲み物をすすって、幸せそうに溜息をついた。
普通にしてればいいのに。普通にしていれば、相変わらず穏やかで。俺が「おかえり」と言って欲しかった、あの時のままだ…。
前田だって、きっと…いや、もう何もかも遅い。考えないことにしよう。
俺はまたコーヒーを一口啜る。
「ああ、なんか僕、こういうの初めて」
「こういうの、ってなんだよ」
「こうやって、誰かとまったりするの」
海ちゃんは、タバコとお酒だもん、後セックス、と藤堂はぽつりぽつりと言う。
確かに、俺とお前一緒に飯を食ったことすらなかったもんな。
「俺も、今年の4月まではしたことなかったよ。機会があるとも思ってなかった」
ずっと独りだったから、と俺もぽつりと言う。
でも、もう習慣になってしまった。彼といると。
誰かといっしょに、たた過ごす幸せを、この身に教えてくれた。
だから、俺はここにいる。
「そのコーヒーいい香りだね」
「ああ、けっこういける。購買で適当に買ってきた奴だけど」
僕にも今度淹れてくれる?と藤堂が聞くので、俺は「ああ」と頷いた。




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あきゅろす。
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