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ハルノヒザシ
13
俺がこの部屋での2回目の一人の朝を迎えた日の放課後。
俺が部屋に戻ると、玄関に一足ローファーが置いてあった。
まさか、と俺は逸る思いででリビングに繋がるドアを開ける。
「みよ…」
「悪かったね。三好さんじゃなくて」
勢いよくドアを開けた俺を出迎えたのは、俺のベッドに腰かけた学ラン姿の夏だった。学校帰りにそのまま来たのあろう、通学鞄が床に投げ出され、俺が渡した合鍵がテーブルの上に放り出してあった。
「夏いつもスニーカーだから、ローファー履いてくるなんて思わないんだもん、いらっしゃい。おなかすいたの?部活は?」
「今日は部活さぼった。何か食べたい」
「わかったわかった。甘いの?それともがっつり」
「どっちも」
そう言うと思ってたよ、と俺はコートを脱いで壁に掛けてから、手洗いうがいして、エプロンをしめた。
冷凍してあるストックがなにもないので、お団子でも作ろうと、上新粉とボールを戸棚から引っ張り出す。
「三好さんは?」
「まだ、帰ってこないみたい」
この部屋にくるものならほぼ当然の問いかけを、俺は曖昧に流す。
「なにそのコート。こないだは違うコート着てなかった?二着買ったの?」
テーブルの俺の席に座り、頬杖つきながら夏は言う。
「んーん。前着てたのは三好の。それは先週街行って買ってきたんだ。夏はコート買った?寒いよねぇ、ここ」
「別に俺いらない。マフラーだけあれば充分」
「それだけじゃ、寒いんじゃないの?カーディガンも着ないで。俺もうヒートテック着てるよ」
お団子を丸めながら夏を見やれば、学ランを脱いだ夏は白いシャツ姿で。学ランの中にカーディガンも着ないでこの木枯らしの中歩いているのが俺には信じられない。
「俺体温高いもん。湯たんぽにしてくれてもいいよ」
ぎゅーっと後ろから夏が抱きついてくる。確かに夏の身体は暖かくて。なんだかほっとする。ああ、また夏背が伸びたね。
「湯たんぽにしては少しでっかいな。布団からはみ出るよ」
「その分機能が優秀だよ。抱き枕にもなるし。腕枕もしてあげるよ」
「夏、俺から毛布取るからな。寝てるとき」
「そんなことしたっけ?覚えがないな」
「俺はお前から布団を取り戻せた試しがないよ」
とぼける夏を、俺はくすくす笑う。なんか今日は一日ぼんやりしていたから、初めて心から笑った気がした。そんな俺を、夏は少しだけ伺うような目つきで見る。
「はい、ちょっとあっち行って。火ぃ使うから」
お団子を丸め終わり、背中にくっついてた夏を追い払って、俺はお団子を茹で始める。みたらしとプレーンしかできないけど、まあいいだろう。
適当に作ったものだから、あっという間にできあがり、俺は再度、俺のベッドに寝っ転がってスマフォを弄る夏を呼んだ。ついでに、こないだ三好の実家から頂いた緑茶も出してやる。
「ああ、何このお茶。美味しい」
「そうでしょう。三好の実家から頂いたの」
「へえ。三好さんの実家って何してるの?」
「さあ、よく知らない。兵庫の方らしいけど」
「へぇ。関西人なんだ、三好さん。訛ってないから全然そんなこと思わなかった」
おしゃべりしながら、あっという間にお団子を平らげて行く夏。俺もお団子を摘まみつつ、すぐに夕ご飯を作ることにする。ああ、ご飯俺の分しか炊いてないや、もう炊飯器タイマーで動いてるし。足りないか。冷凍も切れてるし。さて、どうしよう。
少し考えて、すいとんを作って俺はそれを食べて、ご飯は夏に食わせようと思いたち、小麦粉を引っ張り出して、再びボウルで混ぜ始める。後は豚肉あるからカツ丼でも作ろう。夏足りるかな?
お茶おかわりーと甘えてくる夏に、自分で入れてと答えながら、デザートはサツマイモでパウンドケーキにしようか、それとも大学芋にしようか迷っていた。


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