[携帯モード] [URL送信]

ハルノヒザシ
10(三好視点)※
※悪趣味注意※



「あ、鮭だ。おいしー。十夜君のは?」
「おかか」
「んーこのちっちゃいハンバーグもおいしいー。なにこれ、冷凍食品だよね」
「前田が作って冷凍しといた奴」
一つ上の階の藤堂の部屋。
あはは、すごーい、とさっきのことなどまるでなかったかのような態度の藤堂と、俺は前田が持たせてくれたおにぎりを食べていた。あっという間に6個。タイマーかけて炊き立てのご飯だったから、きっと熱かったろうに。どんな思いで作ってくれたのだろうか。
朝のおかずの残りの大根の炒め煮と冷凍してあったハンバーグまで入っていた。
これでしばらく食べ収めか。しばらく食堂で食べるつもりだから…。
美味しいのに、気分が沈んでいた。俺が撒いた種だけど。テーブルに座る藤堂を避けて、ベットにかけて食べていると、持っていたおにぎりが少しだけ滲んで見えた。
「ふふ、でも十夜君来てくれると思わなかったな。僕、嬉しいよ」
食べ終わって、そのままの場所で本を読んでいると、同じく食べ終わった藤堂が、俺の隣に座りながら言った。べたりと俺の方へ身を寄せてくる。
「僕を選んでくれったってことだよね。春日君より」
「触んな。食べたら薬飲んで寝ろよ」
藤堂の方を見もしないで言うと、ふふ、と藤堂が笑った。
いつものへらへら笑いを引っ込めて。挑発するような。
「変な十夜君。僕なんか嫌いなくせに」
「そういう問題じゃないんだよ。こっちくんな」
つつ、と頬を撫でられて、俺は腕を振って藤堂を振り払う。
「僕がどうなろうと十夜君には関係ないよね。春日君と仲良くやればいいじゃん」
「うるせーな。お前にだって関係ないだろ。つか、勝手に名前呼ぶんじゃねぇよ」
「ははは、ばれた?春日君は三好君って呼んでたね。名前で呼んでもらえばいいのに。ああ、僕のことも鋼でいいよ」
「来るなって言ってるだろ、藤堂」
「せっかく一緒に居てくれることになったんだ。もっと仲良くしようよ。前みたいにさ」
「お前ほとんどいなかったじゃないか」
「十夜君はいてほしい時にいてくれなかったね」
その言葉に、俺が動揺するのを藤堂は見逃さない。硬直した俺の耳元に顔を寄せて囁く。
「ふふ。可愛い十夜君。嘘だよ。僕、気にしてない。本当だよ。むしろあのまま殺してほしかったくらい」
そう言って藤堂は、左の手袋を外した。リスカ痕だらけの藤堂の手。続いて、右の手袋も外す。

薬指と小指の半分そして中指の先もそこにはない。

その手で藤堂は俺の頬に触れた。俺と視線を合わせながら、左手で眼帯も外す。

「こんな中途半端なことするくらいなら」

俺は自分が震えているのに気が付いた。気分が、…悪い。
藤堂は腕を広げて俺の身体を抱きしめた。
「あの痛み覚えてるよ。ねぇ、十夜君…。君は、覚えてる?」
ごつ、と崩れ落ちた俺の身体が、壁にぶつかった音が、脳内を揺らすように響いた。


[*前へ][次へ#]

31/55ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!