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ハルノヒザシ
8・(藤堂視点)
「ねえ、いいよね。十夜君」
僕は後ろに立っていた十夜君にも確認する。多分彼が断わらないだろうこと知っていて。
十夜君は春日君を見ていた。春日君も十夜君を見ている。
黙ったまま、段々白くなっていく春日君の顔。あは、怒ったかな。まあ、怒らせに来たから、怒ってもらわなきゃ困る。
三好君に裏切られて傷ついてもらわなきゃ困る。ついでに僕にも。いくら君に恨みがないとはいえ。

そうでないと、海ちゃんが浮かばれない、から。

弱みにつけこむでもなんでもいい。どんなに悪人になったっていい。僕はそのために戻ってきた。
海ちゃんを僕からうばった君に復讐するために。
実際会って本当にいい子なのもカンに触った。間違っているのは僕らなんだとわかりきっていること、思い知らされるようで。
十夜君。君もずるいよ。僕達と同じだったくせに。一人だけ救われるの?海ちゃんや僕は変われないのに。海ちゃんを救ってくれなかったその子に救われて、二人で幸せになるの?僕達をこの闇の中に置いていくの?だめ、行かないで。一緒にいて。光のほうなんかに行かせない。一人でいるのは嫌。例え短い間でも。
前田君が僕を見る。怒って睨まれるかと思ったら、顔色は大分真っ白だったけど、毅然とした瞳だった。
「藤堂君。三好はものじゃないから。おもちゃじゃないから。あげるとかもらうとかそういう話はできない」
怒鳴ったりなどはしないけど。きっぱりした意思のある声。
僕はぴゅーっと口笛でも吹きたい気分になる。ああ、まともな人が眩しいや。僕には、そんなこと言ってくれる人きっと永遠に出てこない。
三好君がもうやめろと僕の肩に手を伸ばしたのを、僕は跳ねのけた。
「まだ、話終ってないよ。十夜君。それとも力づくで言うこときかす?春日君の前でさ。それもいいね。見てもらうといいよ」
僕の言葉に、三好君の顔色がさっと青ざめた。腕をだらりとさげて、唇を噛む。僕は三好君が大人しくなったのを一瞥してから、また春日君に視線を移した。
「じゃあさ、春日君。一番の仲良しの座譲ってよ。三好君といる時間、全部僕にちょうだい」
「三好が自分の時間をどう過ごすかは、三好の考えに基づいて三好が自分で決めることだ。俺と藤堂君がどうこういう話じゃないよ」
また、パーフェクトな回答。おかしいな、海ちゃんは、すぐべそかいて、弱い、可愛い子だって言ってたのに。海ちゃんのタイプと違うじゃないか。そんなに、この子が特別だったの?
「じゃあさ、十夜君に決めてもらおうよ。僕と春日君、どっちといたいのか…」
僕は十夜君を振り返る。
無表情に戻っていた十夜君は、「行くぞ。藤堂」と踵を返して歩き始めた。
「ふ、ふ。だって。十夜君、今日から僕のだから」
僕は春日君を一瞥してから、十夜君の後を追った。
春日君は怒りに顔を歪めることもなく、ショックで泣きだすこともなく、ただ白い顔で唇を引き結んで僕達を見送っていた。


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あきゅろす。
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