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ハルノヒザシ

週明けの月曜日。
今日も一日を終え、少し長めのホームルームが終わると、後ろからガタンと椅子を引く音がした。もうすっかりおなじみになった音。なんとなく、窓の外に視線を向けたままでいると、ぽん、と肩を叩かれる。
「ごめん、前田。先行くな」
「うん」
もうすっかりおなじみになった言葉。けっして何も言わずに彼は出て行ったりはしないが、その言葉を聞くだけで、また一緒に帰れない寂しさからか、切ない気分になる。週末も三好は留守気味で結局あんまり一緒に過ごすことはなかったし。俺のそんな気分を、俺の表情はきちんと隠せているのだろうか。
肩から鞄を下げ、足早に教卓前を横切っていく彼の背中を、少しだけタイムラグをつけて教室を出る為に座ったまま、俺は目で追った。
いつもはすぐに教室の外に出て行ってしまうその背中。しかし。今日はその背中が教室を出る数メートル手前で立ち止まる。何かあったのだろうか。三好の表情はここからだと見えない。俺は三好の先の教室の出入り口に視線を移した。ちょうど誰かが、廊下から出入り口に姿を表す。

「あっ……」

藤堂君だった。彼は目の前に立っていた三好と何事か教室の雑踏の中で数メートルの距離を保ったまま、言葉を交わして。きょろきょろと教室内を見回した。すぐにそちらを見ていた俺とばっちり視線が合った。藤堂君が教室に入ってくる。三好が彼の背に手をかけて何事か言ったが気にすることなく、そのまま俺のほうに向かって。

「ごぶさた、春日君」
「藤堂くん……」
今日はどうしたの、三好と知り合いだったんだね、と俺が会話を始めるより早く、戻ってきた三好が藤堂君の腕を掴む。
「行くぞ。藤堂」
そう促されるが、藤堂君は首を振って動かない。
「ちょっと、待って。僕、今日春日君に頼みがあって来たんだよ」
「どうしたの?藤堂君」
「おいっ!前田に関わるなって言っただろうが」
「すぐだから」
柔和な声。穏やかな物腰。柔らかな笑み。眼帯や手袋や多数の傷跡が気にならなくなってしまうような。藤堂君は以前俺が見たそのままの態度だった。俺も笑顔を返す。三好といた背の高い男の子は藤堂君だったんだね。以前からの知り合いだったんだろうか。勉強教えてあげてるのも三好なんだろうか。

「ねえ、春日君。お願いがあるの」

「うん、なーに。あ、酔い止め?」

「十夜君、僕にちょうだい」

あくまでそのままの態度で、藤堂君は言った。
にこにこ、微笑んだまま。
彼の言葉に凍り付いた俺を。
にこにこ微笑んだまま、見ている。

「ど、う、いうこと…?」
「今僕、十夜君しか友達がいなくて寂しいんだ。春日君は友達沢山いるでしょう。色んな人に好かれているでしょう。十夜君一人くらい僕にちょうだいよ」

(え……十夜君……三好…ちょうだい?)

笑顔のままのこの子が何を言っているのかなんでそんなこと言うのか本当にわからなくて、俺は藤堂君を見上げたまま動きを止める。
少し経って、藤堂君の後ろに立っている三好を見た。
三好も唖然とした顔で藤堂君を見ていたが、やがておそるおそるといったように俺に視線を移す。三好と合う視線。
「ねぇ、いいよね。春日君」
藤堂君の明るい声がした。


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あきゅろす。
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