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ハルノヒザシ

「はろろーん!せんせー。冷えピタちょーだーい。今日は勉強がんばるよー」
「失礼します」
ちっと言う徳永先輩の舌打ちと共に保健室に入ってきたのは、ジャージをブレザーの下に着た桃山先輩とPコート姿の萩尾先輩だった。
先生いないのーと辺りを見回した二人は、すぐに俺たちに気付く。
「春日君じゃん。ちょっとー、なにやってんのー、望月に言いつけるんだからねー」
「ダメだよ。徳永。春日君涙目じゃないか」
せ、先輩方!本当にいいところにいらっしゃってくれましたっ!と俺が慌てて二人に駆け寄ろうとすると、ぐっと肩を引き寄せ引き止められる。
「なによ、お二人さん。いいところで。冷えピタならそこの棚あるからとっとと出てってもらえる?俺らこれから居残り保健体育やるんだからさ」
抱き寄せられた徳永先輩の身体からは、花のような甘い香りがふわりと香った。
ひやあ、いい匂いでも徳永先輩から香ると怖い!一服盛られそうで!
俺は必死で徳永先輩を押しのけるが、力が強くて押しのけられない。
「居残り保健体育ってなんかえっちな響きだよねーってその通りかー」
「徳永、放してやりなって。ほら、おいで、春日君」
けらけら笑って呑気そうな桃山先輩。見かねた萩尾先輩が、俺を助けに来てくれる。ようやく徳永先輩から解放された俺は、おいでと言われるままに萩尾先輩の後ろに逃げた。よしよし怖かったね、と萩尾先輩が頭を撫でてくれる。安心したのと、萩尾先輩の包容力がすごいので、涙が出てきてしまった。流石あの剣道部の主将を務めていただけはある、このほとばしるお兄さん感。ファンになりそう。
「もー、せっかく春日君と愛を深めるチャンスだったのに。言っとくけどイジメる訳じゃないよ。気持ちよくしてあげるって言ってんのに。ゴムも持ってるし」
ほら、とポケットからコンドームを出されても、よかった!安心しました!なんて言うと思っているのだろうか。
「ほら、春日君一個あげるよ。ちゃんとサガミのだから」
そこで、「だって、もらう?春日君?」なんて俺を振り返る萩尾先輩はやっぱり少し天然な気がする。
俺が、いいです、と断ろうとした時だった。また、保健室の扉が開く。
「おーい。前田いるかー?もう図書室閉めたぞ」
目立つ金髪。ジャラジャラ光るシルバーアクセ。鋭い眼光それらがしめすのは…
もちろん、望月先輩だった。保健室の中を見回しながら、何をしてるんだと訝し気に眉を潜める。神田君もついてきたらしく、ぴょこんと望月先輩の後ろからこちらを伺っていた。
「徳永が春日君に保健体育教えようとしてたー」
「はあ?」
「はいはい、もう今日は授業終了したよ。病人いるから、出てってちょうだい」
「何してんだよ。なかなか帰ってこないと思えば…」」
「望月、先輩……ひっ!!」
安心した俺が、望月先輩に駆け寄ろうと萩尾先輩の後ろから出た瞬間、お尻に妙な感覚。思いっきり徳永先輩にお尻を掴まれ、撫でられた。ついでに、さっきのコンドームを尻ポケットにねじ込まれる。
「残念だな。かわいいお尻が見れなくて。持って行って。また使うかもしれないから」
「い、いら、いら…ない、です」
「てめぇ何やってんだ!」
引っ張り出して返す前に、望月先輩に腕を掴まれ引き寄せられた。神田君が春日先輩大丈夫ですかと、俺の右腕を抱える。
「行くぞ前田。徳永!手ぇ出したら殺すかんなっ!」
「はいはい。じゃ、ばいばーい」
「あ、あの、寝かせてあげてくださいね…」
「大丈夫だよー。タイプじゃないってば」
にたーっと笑う徳永先輩に見送られ俺たちはようやく保健室を後にできたのだった。



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