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ハルノヒザシ

「はい。これ。去年の過去問。よかったら持っていって。俺も先生板垣だったから」
「わあ、ありがとうございます!すっごくたすかりました」
「うん。どういたしまして。はい。お勉強頑張ったごほうび」
なんだかんだと、しっかり勉強に付き合ってくれた榎本先輩。
最後に、紅茶と購買で買ってきた菓子パンまで出してくれた。
当然のようにおしゃべりが始まる。
「春日君たちそろそろ修学旅行だね。どっちに行くか決めた?」
「はい。俺たちのクラスは台湾になりました」
「そうなんだ。俺たちもそうだったよ。3月でも暖かったなあ」
「とりあえず九分には行こうかと。後どこに行けばいいでしょうか?」
「九分すっごく混んでたよ。俺迷子になっちゃって嘉納が迎えにきたもん。怒りながら。そうだね。後は小籠包がすっごくおいしかったなあ。猫空の眺めもよかった。ああ、いいよ。春日くんが好きなの食べな」
ありがとうございますと頷いて、俺はチョコクロワッサンに齧り付いた。うーん。勉強した後の、糖分は最高だ。榎本先輩も、シュガートーストを一口、育ちが良さそうに齧る。
「嘉納先輩ってことは。篠原会長とも同じ班だったんですか?」
「うん。もちろん。篠原も意外とはしゃいでたけどね。気が付くと甘いもの買って食べてるの。普段は校内で食べ歩きするななんて言ってるくせにね」
「あはは。会長、甘いもの好きなんですね。なんか意外」
 いつも厳しい顔している生徒会長の、榎本先輩からの小話はいつも興味深い。
「嘉納だって甘いもの好きだよ。あいつらさ、生徒会室でココアばっか飲んでるからね。まあ、俺もだけど。凜だけコーヒー派」
「嘉納先輩も甘いもの食べるんですか。へええー」
「そうそ。あのいかつい見た目でおとなしくチョコパイとか食べてるからね。ほら、台湾の時の写真。この、クレープは食べたほうがいいよ。パクチー入ってて美味しかった」
 そう言って、榎本先輩が見せてくれるスマートフォンの画面を俺は覗き込む。
「どれどれ。わあ、ほんとだ。会長と副会長が食べ歩きしてるなんて、なんか新鮮過ぎてびっくりです」
「アイスモンスターも行ったよ。あと、パイナップルケーキはここのがおすすめ。春日君は三好君と行くんでしょう」
「はい。同じグループです」
「ふふふ。そうなんだ。確か、台湾には有名な恋愛の神様の神社があるんだよ。一緒にお参りに行けば、いいことあるかもね」
「な、なんですか、それ。別に俺たちは……」
「あれれ。違うの。公認の仲じゃないの。俺、応援しているのに」
突然、風向きが怪しくなってきた会話に俺がうろたえると、いたずらっぽそうに目を細めて、榎本先輩が少し笑う。
「春日君、誰といてもにこにこしてて、可愛いけど、三好君といるときだけは、なんか違うよ。唯一無二の人って感じで、幸せそうだよ」
「あ、あの、そんな…。そりゃ、三好といると安心しますけど、気が合うっていうか波長が会うっていうか、もともとお互い似てたタイプというか。そんなんじゃ、ない、と思います」
「そうかなあ。もともと、春日君はどんな人とも波風起こさず合わせることができるタイプでしょ。その、優しいところにみんな惹かれて集まってくるって感じ。でもさ、三好君は、更にもっと深いところで繋がっているって感じがするよ。もちろん、三好君も春日君のこと俺たちみたいに素敵だと思っているんだと思うけど。それだけじゃないっていうか。春日君もそう思わない?それとも、三好君も俺たちと同じような感じなの?違うんじゃない?それとも、俺の勘違いかなあ」
 今まで三好との仲を特別なものと言われたことは、何回もあったけど。そのどれもが軽いジョークの域を出ないものだったのに、榎本先輩の言葉はいやに具体的で。
 そ、そりゃ、三好は、色々共通点もあるし、仲良しだし、心から信頼してるけど。俺にとって、特別な人は、夏だって、喜介だって、もちろん榎本先輩だって、特別な訳だし。そんな、三好だけが、違うと言われると……。だいたい俺、人が好きとか、恋愛感情とかよくわからないし。きっと俺なんかとはまだまだ縁がないものだろうし。
好きだけど。三好のことは大好きだけど。この気持ちは……。
「人を大切に思うって、すごくよいことだと思うけどな。どんな相手であっても」
榎本先輩の言葉に、自分の顔が、カッと真っ赤になったのが、わかった。
 人を大切に思う。誰であっても。
 ああ、三好。俺はやっぱり…そう、なの、かな…。
 この間感じた、胸がきゅうっとする感じが、また蘇ってきた。


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あきゅろす。
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