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ハルノヒザシ
君とコイバナ
「うわあ。春日君本当に理系科目できないんだなあ」
 いつもの淡々とした声に、少しだけからかいを含んで、俺が今まで何度も言われてきたことを、榎本先輩は言った。
 ここは榎本先輩と凛先輩の部屋。風邪で寝込んだ次の週の放課後、職員室で物理教師を掴まえて、1回休んだだけでわからなくなっていた今日の授業の質問をしていたら、偶然通りかかった榎本先輩に、物理教師は体よく俺を押しつけて、今ここに至る。
 やっぱり生徒会に篠原会長の指名を受けるだけあって、榎本先輩も成績は良いらしく、快く俺の先生役を引き受けて、「だったら、俺の部屋においでよ。春日くん」と数回だけあがったことがある榎本先輩の部屋にお邪魔して、俺の理系科目のできなさを説明し、じゃあやろうか、と榎本先輩の前にノートを広げて数分の言葉。
「…すみません…」
「いいじゃん。春日君は家庭科得意なんだから。俺そっちのほうがすごいと思うな。数学や物理できたって、受験にしか役に立たないよ」
でも、次のテストには必要だよね、と榎本先輩は恐縮してしまった俺など気にすることなく、「じゃあここから行こうか」と、丁寧に、俺の勉強に付き合い始める。
「あれ、この字春日くんの字じゃないね」
「あ、それは、匂宮先輩の…」
「匂宮に勉強見てもらってたの。すごいな春日くんは。確かにアイツ勉強はできるけど。怖くないの?」
「なんだかんだ聞きに行くといつも答えてくれますよ。優しいです。今は自分の受験勉強に忙しいみたいでなので、邪魔しないように今日は先生に聞きに行ってたんですけど」
「そうなんだ。きっと匂宮も春日君のこと好きなんだろうな。ふふふ、ラッキー。僕も、春日君の新しい面が知れて嬉しいや」
 俺がノートに問題を書きつけている間も、話し続ける榎本先輩。最初は見た目の印象から無口なのかなと思ってもいたのだけど、実は榎本先輩は意外とおしゃべりで。いつもの淡々とした調子の言葉は、なんだかそこまで賑やかな性格をしている訳ではない俺にあっているのか、榎本先輩とおしゃべりするのが、俺は好きだ。
「こ、これで合ってますか?」
「うんうん。合ってるよ。じゃあ次はこっちの公式の例題やってごらん。俺はその間、春日君の数学のノートの落書き見て笑ってるから」
「あ!ちょっとー見ちゃダメです。恥ずかしい!」
「春日くん、この日はカレーにしたんだね。へえ。ヨーグルトとチョコ入れるとカレーっておいしくなるの?」
「あああ!読まないで下さいよう」
 俺のある日の全くわからなくて暇だった授業中に書いたメモ書きを読み上げる榎本先輩に、勉強どころじゃなくなった俺は、榎本先輩を阻止するために手を伸ばしたのだった。


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