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ハルノヒザシ

はるちゃん先輩は続ける。
「勿論、俺に止める権利ないけど…。もう、戻らないものだから…。いつかのもし、後悔をくるみちゃんがしないか…と思うと、俺は手放しに「凄いね」とは言ってあげられない…俺としてはそんなことはしてほしくない。。いくらくるみちゃんが今したくても」
まだ、オドオドした感じが残ってたけど、少し目を伏せていたけど、それは確かにはるちゃん先輩自身の嘘偽りない言葉だった。
何かが胸に溢れてきそうで、俺は唾を飲み込んだ。おせっかいだとは思わなかった。されたことすら、なかったから。
声を出そうとすると、俺もはるちゃんみたいな掠れた声が喉を通る。
「じゃあ、俺、どうすればいいかな…」
どうすれば、少しでも、まともになれるかなあ。
どうすれば、少しでも、あなたの気持ちに応えられるかなあ。
どうすれば、俺、変われるかなあ。
変わりたいよ。はるちゃん先輩。俺。
はるちゃん先輩の隣に、胸をはっていたい。
はるちゃん先輩は、うーんと首を傾げる。
「なんか他の趣味に挑戦してみるとかどう?くるみちゃんオシャレだし、あ、アクセサリー作りとか面白いんじゃないかなあ?俺中学の時お友達に作ったりしてたけど楽しかったよ」
「いいね…」
はるちゃん先輩の平和な答えに俺はふと笑ってしまう。そんな俺に気付いたのか、はるちゃん先輩はぎこちなく、でもほっとしたように呑気に嬉しそうな顔をした。フニャっと空気が緩んで行く。春が来るみたいに。
「あ、後ね!前から思ってたんだけど、来海ちゃんさ、ダンスとか似合うんじゃないかと思ってたの。ほら、なんかさ、カッコいい奴。どーかなあ?」
「うふ。ダンスかあ…。いいね…。はるちゃん先輩、もし俺がダンス始めたら見にきてくれる?前田の試合みたいにさあ」
「行く!行くよ!」
俺の言葉にはるちゃん先輩はにこにこと、心から嬉しそうに笑った。嬉しいな、と俺もふふっと微笑み返す。
「なんていうかさ、はるちゃん先輩、やっぱりお兄ちゃんが板についてるね」
「えへへ、そう?だって、あの夏の兄をずっとどうにかこうにかやってるからね!」
「うわーすごく説得力あるう!そうだよね。あの前田の兄ちゃんなんだもんね」
「でしょー?」
そんなことをおしゃべりしだすと、俺の腹がぐーっとなった。「あ!」とはるちゃん先輩がすぐに気付く。
「もう、そろそろ夕ご飯の時間だね。ご飯食べこない?俺の部屋おいでよ」
「えっ?いいの!!」
「うん。もちろんだよ。来海ちゃんはカボチャ好き?今日はねカボチャのポタージュなの。んで、ピラフと鶏もものソテーにする予定なんだけど」
「うん!俺何でも食べるよ!」
「えらいね。好き嫌いないんだ。よし、行こっか」
「うん!!」
俺とはるちゃん先輩は連れだって歩きだす。
はるちゃん先輩の隣で歩いていると幸せだった
暖かいものがジュワッっと胸に滲んでくるよう幸せな気持ち。俺が受けたことのない愛情。

「はいどうぞ、入って入ってー」
「お邪魔します。ん、三好先輩いないの?」
「図書館でも行ったんじゃないかな?多分ご飯までには帰ってくると思う。てきとーに座ってて。30分くらいでできるから」
「うん!ありがとう、はるちゃん先輩」
はるちゃん先輩は手を洗ってから、手馴れた手つきで紺色のエプロンを締めると、多分いつもやっているように台所に立って、夕ご飯の準備を始める。
誰かが台所に立っているなんて久しぶりに見た俺は、じーっとその後ろ姿を眺めた。鼻歌交じりに楽しそうなはるちゃん先輩。

はるちゃん先輩って不思議な人だ。
先輩っぽい時もあるし、友達っぽいときもあるし、なんか頼りなく見えるときもあるし、おにいちゃんみたいなときもあるし、おかーさんみたいな時もある。
でもどんなはるちゃん先輩でも、会うたびに好きになる。
俺の前で微笑んでほしくなる。また、会いに来たくなる。
前田は怒るかしら。怒るだろうな。でも、ちょっとだけ許してね。
俺の気持ちに嘘はないから。

食後にはカボチャのモンブランがあるんだと話す、はるちゃん先輩に相槌を打ちながら俺はこっそり口の中のピアスを舌で弄る。
帰ったらこれ外して、隣のクラスのダンスグループ組んでる奴の部屋行ってみよう。
そんで、実はちょっと前から気になってアいたクセサリーキット思い切って通販で頼んじゃおう。
はるちゃん先輩のお部屋はいい匂い。カボチャの甘い匂い。ピラフの美味しそうな匂い。もも肉に擦りこんでるハーブの匂い。はるちゃん先輩はいつも優しい、いい匂い。
「ただいまー、あれー誰かいんのー?」
三好先輩が帰ってきた声がした。


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あきゅろす。
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