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ハルノヒザシ

はるちゃん先輩が震え始めた。俺を見て。
「あ、あの…ごめ…くるみ、ちゃん…」
思いがけない言葉にマジな声を出してしまった俺に、暴力の臭いに、反射的に怯えて目を見張るはるちゃん先輩の姿。
唇に当てられた震える指先も腕も首も肩もどーしよもなく華奢で。壊れやすそうで。脆そうで。俺がいつも喧嘩でやってるみたいに一発ぶん殴れば、吹っ飛んでって砕けてしまいそうだった。
予め、暴力を受ける側、傷つけられる側として存在してるようなよわよわしい人。多分俺のような人間とは対局にある存在。
それでも……。

「で、で、も…。痛い、のは……」

はるちゃん先輩はそれでもまだ、つっかえつっかえ言葉を紡ぐ。喘ぐように、震えた声で。俺を見て。俺の為に。
今にも泣きべそかきそうな掠れた声にはっと気を取り直した俺は慌ててさっきまでの自分を取り作ろう為口を開いた。
「だ、だって、さ。痛いのはるちゃん先輩じゃないじゃん。どーでもいいじゃん。俺のことなんか。好きでやってるんだし、気にしなくていんだよ、はるちゃん先輩、ねっ?あはは、ごめんね。変なこと言ってさ。ね、違う話しよう。あのね、俺ね…」
急いでいつもの調子を取り戻し、さっきまでのことを流してしまうおうとすると、はるちゃん先輩がくしゃりと顔をつらそうに歪めたのが見えた。
「何、言ってるの?どうでもよくなんかないよ!気にするよ!自分のことどうでも良いなんて言っちゃ駄目!」
少しだけ声を大きくしながら、なんだか怒ったように言うはるちゃん先輩。
その言葉の節々に滲む紛れもないやさしい感情が俺に向けられてるとは、どうにもすぐに信じがたくて。
俺は間が抜けた声で「なんで?」と言ってしまった。更に「どうして?」とはるちゃん先輩を問い詰める。

なんで?どうして?そんなことが言えるの?はるちゃん先輩に何がわかるの?何で俺のことなんか気にするの?俺はかーさんからもとーさんからも見捨てられて、ここに捨てられたどうしよもない人間なんだよ?そんな鬱憤を晴らしたくて喧嘩ばっかりしてるんだよ?はるちゃん先輩も前田の兄ちゃんなら知ってるだろ?バカみたいにピアスばっか開けて取り返しがつかなくなる感じが少しだけ憂さ晴らしになるような、そんな人間なんだよ。誰に大してもへらへら笑って薄っぺらい感情しか出せなくて、喧嘩の痛みとピアスの痛みだけがリアルな気がして。どーでもよくて。つまんなくて。考えるの面倒で。ただただ日々をやり過ごすように、憂さ晴らしで過ごして。でも、どうしてそんな俺に今まで優しくしてくれたの?どうして今震えて怯えながらもながらも心配してくれているの?それなんかはるちゃん先輩にとってなんのいいことがあるの?ねえ、なんで。どうして?どうして?どうして?どうして!!!

俺の言葉に、はるちゃん先輩はぽつりと答える。一生懸命言葉を選びながら。

「…くるみちゃんが、傷つくのは…俺が、悲しいから……」
「…………」

はるちゃん先輩。はるちゃん先輩。
それ、本当?
俺のためにあなたは悲しんでくれるのですか・?



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あきゅろす。
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