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ハルノヒザシ

「三好。次は上向いて。違う。目だけで」
椅子に座った三好が大人しく俺の指示に従う。
その三好の姿をもし人が後ろから見たとしたら、三好とわかる人はいるだろうか。いや。絶対いない。
今の三好は赤いドレスを着て黒の長いウイッグまで被っているのだから。おまけに今ばっちりメイクまでされている。
(アイラインって引くの難しいな…)
大道具やクラスのみんなが家族から集めてきてくれたメイク用品。
その中にアイライナーを見つけせっかくだから引いてみようと俺は三好と向き合っていた。
うーん。女の子は大変なんだな…。
女の子向けの雑誌のメイク特集とにらめっこしながら、俺は染々思う。
出来れば俺とわかんねーぐらいにしてくれとの三好のリクエストによりがっつり下地から作り込み、ファンデーション。チーク。ゴールドのアイシャドウ。ハイライト。マスカラ。つけまつげもつけて。最後に真っ赤な口紅をひいた三好の顔はもはや別人になっていた。 だいぶ濃くしたし。
(でも…)
相変わらず、綺麗なことに変わりない。
「できたよ…」
「ん、ありがとう。どう?変か?」
声はいつもの三好なのに。
目の前にいるのは真っ赤なドレスを着て、黒く長い髪を結いドレスと同じ大きなバラの髪飾りをつけ、赤いイヤリングが耳元に揺らし、口元を真っ赤な口紅で彩っている…

とても美しい人。

思わず俺は自分でメイクやらなんやらしたくせにポカンと見入ってしまう。

ここまで綺麗な人は…俺今までに見たことがない。

本当におとぎ話の中から抜け出てきたようなその姿。
上の窓から射し込んでくるオレンジ色の日射しに照らされて、ますますその姿は美しく浮かび上がる。

「前田?前田ってば」
「あ、ごめん。綺麗過ぎて…」
言葉失ってた…。
「やだなー前田。オーバーなんだから」
中身俺だよ。しっかりして、と三好に肩を揺らされてようやく俺は正気に戻る。


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あきゅろす。
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