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ハルノヒザシ

「でもほっとしたよ。俺はほぼ立ってるだけでいいんだな」
帰り道。
ほっとしたように言いながら、三好は安堵の表情を浮かべた。
さっきの台詞合わせで大体の流れが掴めたらしい。
「引き受けたは良いものの、俺演技なんて出来る気がしなかったかんな。台詞は言ってもらえるし」
「無表情シンデレラもいいんじゃないかな。面白いと思うよ。俺も台詞言ってもらえて安心だな。声震える心配ないし」
そこで部屋の前に着いたので、先に歩いていた俺は鍵を開ける。
「さーてと」
手洗いうがいをし、鞄を片付け、さっそく俺は机の前に座り、床の上に置いてあった紙袋の中身を取り出した。
中にはコツコツ作っている髪飾りとコサージュ。夏の間夏に変な顔をされながら古着屋さんを回ったり、弥生ちゃんの小さい頃の洋服をもらったりと材料を集めて作っていたものだ。
三好がシンデレラ役に決まる前まではこそこそ隠れて作っていたが、もうバレてもいいので毎日テーブル一杯に広げて作業している。
真っ赤な薔薇をモチーフにしたコサージュと髪飾り。
やたら手間がかかるデザインにしてしまったが、針作業は好きなので楽しみながらやっている。
「上手いもんだな」
手前に座り、コーヒーを飲みながら三好は、ほぼ出来上がった髪飾りを弄ぶ。
「真っ赤なシンデレラってどうなのかな」
「三好には赤が似合うよ」
ちくちくと針を動かしながら、俺は三好に言う。
真っ黒な髪に意思の強い真っ黒な瞳。
真っ赤な情熱的な色にも決して負けることはない。
「自分がこれつけてるとことか全く想像出来ないな…」
「今度大道具がウィッグとメイク用品手に入れてくるみたいだから一回合わせさせてね。それまでに俺もなんとかドレスを一通り仕上げておくから」
「メイクまですんの…。俺できねーよ…」
「大丈夫俺に任せて!予習は抜かりないよ!!」
「もう前田の好きなようにしてくれ…」
パッと女の子向けの雑誌を取り出した笑顔全開の俺に対して、三好はやれやれといった表情を浮かべたのだった。


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