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ハルノヒザシ
僕たちのお姫さま
九月。
今日は初めての登校日。
久しぶりに会ったクラスメイトはみんな日焼けなんかしてて、楽しかった夏を思わせる。

「はい。じゃあ賛成多数と言うことで決定!拍手」
パチパチパチ!
教室に鳴り響く拍手。
始業式がつつがなく終わり、今は今期最初のロングホームルームの真っ最中。
新学期そうそう気だるげな我らが担任西原先生は、早々に文化祭実行委員に教壇を明け渡し、現在はクラスの出し物を決めているところ。俺達のクラスは演劇でシンデレラをやることになった。
まぁ、ほぼ決まってたことなんだけど。確認は大事だよね。
ちらっと後ろの三好を見ると頬杖ついて興味無さそうに外を見ていた。
眠いから早く帰って寝たいな、と顔に書いてある。 つか半分多分寝てる。
ある計画に自分が勝手に巻き込まれていることも知らずに…。
「はい。じゃあ役決めするぞ。まずは主役のシンデレラやりたい人」
「……」
誰も手を上げない。まあそうだよね。男子校で文化祭でシンデレラを自分からやるってかなりハードル高い。
「おいーおいしいだろこれは。じゃあ推薦ある人!!」
「はい!!」
「はい。音羽」
「俺。三好君を推薦します」
事情を知っているクラスメイトがわー賛成ーっと一斉に声をあげた。
文化祭実行委員が黒板横のシンデレラの文字の横に三好の名前を書く。
「だそうですが、三好はどうですか?」
「三好!!呼ばれてるよっ!」
「…?!」
かくん、と船を漕ぎ始めていた三好をつついて起こすと、ハッとしたように顔を上げる三好。
クラス中の視線が自分に集まっていることに気付き、訝しげに眉をひそめ、辺りを見回して黒板に書かれた自分の名前を発見しギョッとした表情になった。
「え、あっ、なんで…?!」
完全に寝耳に水だったらしく、困惑した表情を浮かべる。
「俺が推薦しましたー。三好がシンデレラしてるとこ見たいよねーみんな」
パッと手を上げ、ニコニコと音羽が邪気のない顔で言うと、結構な人数が大きく頷いた。もちろん俺も。
「お、俺は演技とかできねーしそもそも柄じゃないから辞退します。劇俺のせいでぶち壊すのやだし」
「大丈夫!台詞はマイク放送でバックの奴等が入れるから」
「演技なんか大根の方がウケ狙えていいよ!!」
「三好がシンデレラやるんだったら俺衣装担当付きっきりでやるよ」
そう声をかけると三好が「前田。お前もか」と裏切られたような顔をした。
(や…やり過ぎたかな)
軽く唇をかんでややうつむいてしまった三好を見て俺は二条や音羽達と軽く目配せをし合う。三好をダメもとでもいいからシンデレラに推薦することは、前々からクラス会に出たメンバーで決まってたことだったが、あんまりに嫌そうだったらもちろん無理にやらすのはやめようと決めていた。女装姿が見たいとはいえあんまり悪ふざけをやり過ぎると三好がかわいそうだ。
「三好。ごめん。悪のりし過ぎた。やりたくないなら…」
「いいよ…」
「え…?」
「俺でいいならやります」
助け船をだそうとした俺をちらりと見てから、顔を上げた三好はキッパリと言った。
わーっとクラス全員が拍手を送る。


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