ハルノヒザシ
13
(うふふ、寝ちゃったぁ…)
早起きして一日歩いて疲れたのだろう。布団に入った途端に眠ってしまう兄貴。
しっかりくっつけた俺の布団から、兄貴の寝顔を拝もうとじりじりとにじり寄った。肘をつきながらじっくりと兄貴の寝顔を堪能する。
家の中にばっかりいて白い肌。ちょんと頬を人差し指でつついてみても起きる気配がない。そのまま鼻、まつげ、おでことつつき、くるくると柔らかい猫っ毛を指先で弄ぶ。
世界中で兄貴にとってある意味一番危険な男が横にいるのに、ぐーすか眠る兄貴の無防備さが愛しい。
(あんなことしても、弟でいさせてくれるんだね)
嬉しいよ…俺。だからできる限り兄貴の想いに応えたい…。
(でも…)
ちらり、と付けっぱなしのテレビを見るとまだ今日は終わってない。
(今日は俺の誕生日だから…)
キスくらい、しても、いいよね…。
仰向けで眠っている兄貴の顔の両側に手をつき、目を閉じる兄貴の顔を見下ろしながら心の中で呟きながら、俺は軽く唇を舐めた。
少し開かれて、規則正しく息を吸う兄貴の唇。
その吐息が自分の唇で感じられるくらいまで、俺はゆっくりと顔を近付けた。
目の前に見えるのは兄貴だけ。
唇から数ミリを残して、俺は動きを止める。
触れたい…触れたい…触れたい。
どんなに柔らかくて甘いんだろう。
バクバク鳴る自分の心臓の音がうるさい。
(ふぅ…)
しばらくそのままでいた後、俺はふっとため息を吐いた。
(できない、な…)
きっと触れてしまったら今度こそ戻れない。
「お前の兄貴でいたい」と涙ながらに訴えてきた、兄貴の、まっすぐな気持ちを汚してしまう。俺の手でぐちゃぐちゃに。
まだ、俺に触れる資格はないんだ。
ゆっくりと身体を起こすとテレビから「零時になりました」とのアナウンスが聞こえた。
楽しい楽しいおれの誕生日はこれで終わり。
今日は、親父が死んだ日だ。
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