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ハルノヒザシ
12
部屋に戻ると、ニつ布団が敷いてあった。
和室にまっ白な白い布団。室中には俺と兄貴の二人だけ。しかも浴衣。
これは、これは、これは…。
俺の妄想のボルテージは本日最高潮。
鼻血が出そうなくらい興奮している俺の気持ちなんて知るはずもなく、兄貴はゆったりと窓際の椅子に腰をおろす。
「いいね。こういうの…」
窓から見る京都の夜を眺めながら、兄貴が染々と言った。
「うん…」
俺は正面の椅子ではなく、椅子に座る足下に腰をおろし、兄貴の膝に顔を伏せながら同じ景色を見つめる。
すりすりと頭を擦り付けると、兄貴の手が頭を撫でてくれた。
「夏、ロッキーみたい」
昔よく散歩に連れていってた近所のばあさんの飼い犬の名を兄貴が口にする。
兄貴に可愛がってもらえるなら、俺犬でもいいよ。
止まった兄貴の手にもっとしてと頭を擦り付けると、犬にするようにくしゃくしゃと頭を撫でてから、耳元をくすぐるように撫でてくれる兄貴の手。
毎年毎年兄貴は精一杯俺を祝ってくれるが、今年が一番幸せかもしれない。
なんだかんだと誰かがいて、兄貴にこうやって甘えられるのは珍しいから。
一緒に暮らしていない今は尚更だ。
「また。来たいね。やっぱ一日だとなかなか見きれないから」
「ん…じゃあ今度は俺が働いたら連れてきてあげる」
「ふふ…楽しみにしてる」
兄貴の膝に顔を埋めている俺の耳をくすぐる、兄貴の柔らかな声。
とんとん、とあやすように俺の頭ゆっくり叩く兄貴の手のひら。
触れたところから伝わる兄貴の暖かさ。

ただただ俺は幸せだった。


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