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ハルノヒザシ

「うわー十種の湯だって。楽しみだなー」
「あ、うん」
大浴場まで歩いている短い間、俺は横で歩く兄貴にひとつも気のきいた台詞が返せなかった。
(どうしよう。一回抜いてきた方がいいかも。でも不自然だしな…。昨日もしたから大丈夫だろうか…)
それどころじゃなかったから。
ああ、兄貴と一緒に風呂に入るなんていつ以来だろう。兄貴の裸なんて。いや、アパートいたときは時々風呂入ってる時わざと話しかけにいったりしてたけど。 でもモロに見たのは…。
そんなことばかりが頭を巡る。
そんなこんな思っている間に大浴場に着いてしまった。
躊躇なく暖簾をくぐる兄貴に、マジで入る気なんだと内心少し驚く。
絶対にプールにも銭湯にも入らなかった兄貴が。
なにかあったのだろうか。
さっそく服を脱ぎ始める兄貴を横目でちらちら見ながら、俺は思いを巡らせた。
そんな俺の気を知るはずもなく、兄貴はどんどん服を脱いでいく。

白くて細い手足。筋肉が少ない薄い身体。滑らかで柔らかそうな肌。
そして、背中には大きなケロイド状で変色した火傷の痕。

ひさしぶりに見た兄貴の身体は、何も変わっていなかった。
先に脱衣して浴場に向かっていた知らないおっさんが兄貴の背中を見て息をのむのが目に入る。
「行こう。夏」
そんな周りの視線を知ってか知らずか。あくまで自然な態度で兄貴は歩いていく。
そんな兄貴の艶かしい後ろ姿を見た俺は一瞬で、全てどうでもよくなって「はーい」とスキップ混じりに兄貴の後を追ったのだった。

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