[携帯モード] [URL送信]

ハルノヒザシ

「ごめんな。前田。こんな変な話しちゃって」
「んーん」
隣で申し訳なさそうに言う音羽に、俺は首を振った。
「全然、気にしないでよ」
ほんとに、と、じーっと音羽の目を見上げながら俺が言うと、音羽はクスリと仕方なさそうに笑う。
「ははっ前田の方が思い詰めたような顔してるぜ」
やっぱ、ごめんな、と微かに謝りながらスッと音羽は立ち上がった。
陽が暮れつつあるグラウンド。
陽より電灯の方が明るくなってきた中に、音羽の影が長く長く延びる。
立ち上がったまま、帰る気配の無い音羽。
俺は、彼の隣で黙ったまま座っていた。

「………」
お互い黙ったまま、何秒が過ぎたころだろう。
すぅ、と深呼吸するように深く息を吸い込む音。
ちらり、とだけ彼の顔を見上げてみても、影になっていて表情が見えない。
ただ、強く噛み締められた唇が、握りしめられた拳が、微かに震えていることにだけ、俺は気付いた。
彼は、そのまま話しだす。

「…そうだよな。俺のこんな気持ち。多分一次の気の迷いだよな。桃先輩が引退すれば、多分消えるにきまってる」

「大学入って、合コンでもして、かわいー女の子なんか見れば、きっと忘れちゃうんだよ、全部、全部、全部」

その声に苦しさを滲ませて。

[*前へ][次へ#]

20/58ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!