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ハルノヒザシ

「じゃあな、前田。ありがとう」
「じゃあね、音羽。明日は頑張って」
軽く手を振りながら、部屋へと戻って行く音羽に俺も手を振り返し、自室へと戻る。
「ただいまー」「おかえり、前田」

「トマト頂いちゃった。すぐこれでご飯作るね」「おー旨そう、一個くれ」

「いただきます」「ごちそうさま」

いつも通りの部屋での日常。
だけど、俺の頭の中にはぐるぐると一つのことが渦巻いて離れない。

『俺、もう、どうしたらいいのかわからない。ただ、明日は勝つ。絶対に勝つ』
帰り道。音羽がぼそりと呟いた言葉が。

音羽は全身全霊で悩んでいた。苦しんでいた。だけと、想っていた。一途に、純粋に、強固に、桃山先輩を。
わかんなくて、焦って、もがいて、それでも、前に。
そんな彼の姿は、どうしても俺の中で一人の人物と重なってしまう。
俺を、好きだ、と言った彼と…

「!」
そこまで、思った時、俺はハッと顔を上げた。
読んでいた本から顔を上げ、じっと俺を見ていたであろう三好と目があう。
「…ぁ…」
ちょっとだけ、驚いて声を上げた俺が面白いのか、にっと三好が笑う。
「ははっ。前田。起きてるか?」
「…うん」
どうやらずっと見ていたらしい三好。
自分の間抜け面をずっと見られていたかと思うと、顔が赤くなってくるのがわかる。
「…いつから見てたんだよ」
「わかんね。ちょっと前から」
視界に入ってるはずなのに、気付かねーんだもん。前田。 目ぇ開いたまま寝てるのかと思った。
「魚じゃないよ、俺は」
くすりと思い出すように笑う三好と顔を合わせているのがなんだか恥ずかしくて、俺はぷい、と横を向いた。と、視界に入る時計の針。
(10時45分か…)

明日の準備して、寝よう。
明日は、彼に会える。
悩んで、苦しんで、でも、それでも、想って、全力で前に進む君に。



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あきゅろす。
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