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ハルノヒザシ

「だから、諦めなきゃいけない!諦めなきゃいけないっ!!」
俺のこの感情はおかしいものなんだから!
耐えきれなくなるように語気を荒げながら、音羽の言葉は続く。
虚空を呆然とした瞳で見つめながら。
「でも、でも…!俺は、怖いんだ。今のこの気持ちを幻のように消してしまうなんて。忘れてしまうなんて」
桃先輩と離れたら、全てが無くなってしまうなんて。
そんなの
今の俺のこの苦しさとかってなんなんだろうって
俺にとって桃先輩ってなんだったんだろうって
思えば思うほど怖くなる。
そこまで言って、音羽は一度言葉を区切った。
かすかに、鼻をすする音。
茶色がかった髪の毛をかき上げながら、目を手で被う姿に、つんと鼻の奥が痛くなってくる。

「…だって…、だってさぁ…」
俺は桃先輩が…
ほんとに…
好きなんだ…
―泣きそうな、音羽の声。
「おかしいだろ?俺。男が男を好きだなんて。気持ち悪いだろ?馬鹿みたいだろ?」
―泣き出しそうな、音羽の声。
「でも、好きなんだ。絶対に勘違いなんかじゃない…」
尊敬を取り違えてる訳じゃなく
信頼を思い違えてる訳じゃなく
俺は、おれは、おれは…

「っつ…」
そこまで言うと、耐えきれなくなったように音羽は頭を抱え、膝に頭を埋めた。
「おかしく、なんかないよ」
俺はただ震える音羽の肩を擦ることしかできなかった。



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