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ハルノヒザシ
先輩と後輩
その日の夕方。
大分傾いた夕陽が差し込むグラウンド脇を、一人俺は歩いていた。
トマトが沢山実ったから是非もらってくれ、という管理人さんのお言葉に甘え、トマトを沢山もらって来た帰り道。
まだ、大分明るいものの、ちょうど夕飯の時間に差し掛かるため、さきほどはグラウンド至る所で練習していた部活生の姿も今は殆どない。
だが…、そんな人気の無くなったグラウンドの真ん中。
白く引かれたトラックのスタートラインの上。
ぽつん、一人微動だにせず
長い長い影を足元に携えて
誰かが、そこに直立しているのを俺は横目で捉えた。

「音羽…」
目を凝らしすぐにそれがクラスメートだと気付いた俺は、一人で何をしているんだろうと不思議に思う。

とりあえず側に行ってみようと近づいてみるが
音羽の横顔には普段とは違う張り詰めた雰囲気が漂っていて、俺は一瞬だけ声をかけるのを躊躇ってしまう。
何も無い空間を真剣な顔で見つめる彼。
彼にはそこに何が見えているのだろうか。
「お、音羽…?」
だがしかし、すでに声をかけなければ逆に不自然な位置まで近付いてしまった俺は、遠慮がちに彼の名前を呼んでみる。
途端に、ハッと気付いたように俺に注がれる彼の視線。
「あ。よ、前田、どしたの。こんな時間に」
といつもの軽い調子で話し出す音羽。
「んー。管理人さんにトマト頂いて来たんだ」
「あ、ホントだ。うまそう」
「音羽は?」
「ああ。ちょっと走ってた」
Tシャツに短パンという思いっきり部活スタイルな音羽の恰好が示す通りの解答。
えらいなー、こんな時間まで一人で。
俺は素直にその音羽のひたむきさに感心してしまう。

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あきゅろす。
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