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ハルノヒザシ

「なぁ、前田。ちゅーしよう」
しばらく黙った後、ガバッと起き上がった音羽は、突然、脈絡なく言った。
「えぇ!?」
いきなりなんだ、どうしたんだ、とぎょっとする俺をじぃっと正面から見つめてくる音羽。
音羽がそっと重ねてきた手を振り払うことも出来ず、俺はその視線に真っ向から晒される。
「いい?だめ?」
「え、ちょ、待て、お前…」
ずいっと顔を寄せてくる音羽に思いっきり狼狽しながら、俺は上ずった声で音羽を制した。
そんなっ!ちゅーしたいって言われてもっ!ここグラウンドのど真ん中だし、寮から丸見えで誰が見てるかわからないし、まずなんでこんなことになってるのかわからない!
だいたい音羽。お前は…
今、桃山先輩の話をしていたじゃないか!
と、あんまりにも突っ込みどころが多い音羽の行動に、思わずパニックになった俺が口ごもっていると、

「ふふ、まぁ、困るよな。…俺も気付いた時には焦ったよ。なんだ、自分。ホモなのかよ、てな」
音羽の一人言は続く。
俺から身を離し、グラウンドに寝そべって、空を見上げながら。
「男子高でしかも全寮だから、勘違いだとも思った。だって俺、寮に入ってない中学の頃は普通に女の子で好きな子いたし」
気にして調べてみたら、機会的同性愛とかってあるしな。俺、単純だから充分ありえることだと思うし。
「こんな気持ちはいくらでも無かったことにだって出来るんだ」
空を見上げながら、音羽はやけに達観したように言いきった。
俺に聴かせるためではなく
自分に言い聞かせるように。
明日は晴れだね、という当たり障りのない会話をする時と変わらない淡々とした声。
ーこの気持ちを無いことに出来る。
音羽の言葉が、ぐるぐると俺の中で巡る。
ぐるぐると、誰かの思いと重なって。


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