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ハルノヒザシ
10
ぎゅっと俺は三好のシャツを掴んだ。
「三好…」
「なに?」
「…言っても、いいですか?」
「うん」
「…俺」
「うん」
「…俺、怖くてたまら、ないんだ」
堰がきれたように、俺は話し始めた。
俺に起こったこと。
俺には、こんなことをされる覚えが全くないこと。
次は何をされるのかと、不安でしょうがないこと。
誰からの悪意かわからなくて、回りにいる人皆が怖くて仕方ないこと。
なんで俺がこんなめに、と何もかも嫌になること。
でも、何よりも心が、痛くて痛くてたまらないこと。

「…もう、嫌だよ…」

三好の胸にすがりつきながら、わぁわぁと俺は泣いた。
悲しくてではなく
辛くて痛くて嫌でという
自分のためだけの理由で。
辛い怖い嫌だと子供のように繰り返しながら、俺は泣き続けた。
「そうか、辛かったな」
じゃあ…
俺の体操着使ってないから使えよ。
ノートは俺のコピーすればいいよ。
俺に出来ること、するから。
話を聞いた三好は特別なことは何も言わなかった。
大層な同情もしなかった。
ただ、慰めて、自分が出来ることだけを言った。

「いつでも、俺は前田の味方だから」
と、最後に添えて。

俺が何年も恐れ続けた
他人に自分のことで迷惑をかけるという行為の代償は
安心を与えてくれる体温と優しい言葉、ただそれだけだった。


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あきゅろす。
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