ハルノヒザシ 9・(夏月視点) 「何って図書委員の仕事だよ。学級文庫の入れ替え」 是非読んでね、と軽く笑いながら言う兄貴。 図書委員ね…。そんなことまでやるんだ。ご苦労様だなー。 まぁ、んじゃあ。仕方ないか。 「へー、そりゃ大変だね」 「だろー。んじゃ、俺まだ仕事あるから」 「じゃあ、俺も帰る」 よいしょと足元の段ボールを持ち上げる兄貴の腕から段ボールを奪い、俺は歩き始める。 兄貴より先にスタスタと。 ったくもう、兄貴は。油断も隙も無い。 三日ぐらい平気だろうと思って目を離した瞬間、これだ。 俺を呼び出しておいて、風間はいねぇし。いや、代わりに兄貴が居たから結果はオーライなんだけど…。 でも、つーことはあれだ。 兄貴は二人っきりだった訳だ。あのムカつく、闘争狂と。さて、何を言われたんだか、あの馬鹿に。 「ちょ、待てよー、早い」 思わずこのあいだのことを思い出し、舌打ちしそうになった時、少し焦ったような兄貴の声が後ろから響いて来た。 立ち止まって、振り返ろうとするとギュッと兄貴に腕を掴まれる。 「なーに怒ってんの、夏」 「別に怒ってないよー、俺は」 俺を見上げる兄貴の瞳を一瞬見下ろし、すぐに目を反らしながら俺は言う。 ほらほら拗ねてるー、とそんな俺の様子を見た兄貴の呆れたような声。 「別に拗ねてない」 「そおかぁ。今日の夏なんかおかしいぞ。六月だからかな?ほら、返せ。ありがとう。部活頑張ってね」 食堂や図書室に向かう渡り廊下の前で、兄貴は俺から段ボールを受け取った。 「うん。じゃあね。あ、そうだ。今週髪の毛切ってね」 「おー、じゃあ部屋おいで。じゃ、バイバーイ」 軽く俺に手を振りながら去って行く、兄貴の姿を見送る。 いつもだったら追っかけて行くところだけど、今日はその場に立ち尽くしたまま。 [*前へ][次へ#] [戻る] |