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ハルノヒザシ
15・(三好視点)
「三好、だからね。もう、いいんだよ」
前田が言う言葉は、俺がいつか前田に言った言葉。
ああ、覚えていてくれたんだ。
抽象的な言葉に前田はどんな思いを込めてくれているのだろう。
優しい前田の言葉と暖かい前田の体温が直接俺の弱い部分に流れてくるようで、俺は不覚にも泣きそうになった。
あんまりにも人々に拒絶され過ぎて、人々を拒絶し過ぎて。
せっかく出来た繋がりさえも俺は疑っていたんだ。
いつか、まやかしのように俺の前から全て消えてしまうんじゃないかって。
普通に出来た友達も
普通に笑い合えていた事実も
普通にそれを受け入れた自身も
その土台となる俺が普通でない紛い物だったから。
全てに終わりが来るに決まってるって。
そうやって、普通を誰よりも切望していた俺は、誰よりも普通を恐れていたんだ。

求めていたものは余りにありふれていて、余りに脆く見えた。
ちょっとだけ、時がたって、それが大切になってきた時に、ガラガラと崩れて行きそうで。
そんなこと耐えきれないから、外見は精一杯繕っていた。
そのために手にした強さは、更に、自分の心を弱くしていって…。
いつの間にか拒絶しかできなくなっていた。
でも…

「俺はね、三好。今のお前が大好きだよ。過去に何があろうと、目の前にいるお前は変わらない」
って、いっつも言ってるから知ってるかーと言う後ろからの前田の声。
ああ、こんなことも俺いつか言ったっけ。まるっきり立場が逆になってるな。
でも…
すげー嬉しい。
「うん。俺も」
俺はやっと一言だけ言えた。

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あきゅろす。
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