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ハルノヒザシ
12
三好が笑ってる。
すごく大人っぽく微笑んでいる。何だか怖いと思うのに目を離せないくらいに綺麗に。
「これが何かと言うとね…」
そう言いながら三好の手がそのアトを押さえた。
スッと俺の視線も自然にそこに移動する。

「……地獄だよ」

愉しそうに明るく言う三好。
俺はその一言にすごく納得しかけた。
さっきまでうまく表現できなかった妖しさ
さっきまでうまく形容できなかった凶々しさ
更に、数本その上を走る大きな傷が一層の凄みをかもしだしているそのアト。
黒と赤と青が織りなす混沌としたその模様は正に地獄と言うのにふさわしい…、と思う。

ただ一つ、それが三好の身体にあることを除いては。

「俺の知り合いの彫り師にさ、好きなもん彫れよ、て言ったらこんなもん彫りやがったんだよ」
何を考えてんだろうね、アイツは…、と三好が一瞬だけ昔を懐かしむように視線を遠くした。
もちろん、微笑んだまま…。
「でもね。やっぱ凄く気に入ってたんだよ。あぁ、よくやってくれたなって…」
俺にふさわしいなって…。
「あーあとここにはね、悪魔が彫ってあったんだよ」
とびっきり気色悪い奴がね、と三好はぐちゃぐちゃに傷つけられ、原型が全くわからない左胸のアトを押さえた。
「あ、くま…?」
「そ、悪魔。悪魔と地獄」

傑作だろ?

三好の顔にこれ以上ないってくらい楽しそうな、でもこれ以上ないってくらいシニカルな笑みが浮かんだ。

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あきゅろす。
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