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ハルノヒザシ
6・(三好視点)
俺が他人の前で笑うなんて
俺が他人と風呂に入るなんて
俺が他人を家に誘うなんて

ありえるはずがなかったのに

全てを拒絶してきたこの俺に
全てをほおり出したこの俺に
悪魔と呼ばれたこの俺に

許されるはずがなかったのに

本当にスゲェ不思議なんだよ。

それが普通に許されてることが…。
俺が諦めていた全てが簡単に手に入ったことが…。
そんな気持ちでチラリと俺は前田に視線を移した。少しだけ疼いた右肩の痕を抑えながら。
そんな俺を他所に鼻歌交じりにはしゃいでいる前田。
誘って良かったなーと思う。
「あんまりはしゃぐとのぼせるぞ」
「だってー楽しいじゃん。貸し切りだよ。貸し切り!次の点検日が今から楽しみだよ」
すーっと前田が俺の方に近づいてきながら言う。
ぼんやりとしていた前田の表情がだんだんハッキリして来た。
ああ、やっぱりすごく笑ってる。
「大体二、三週に一回だからなー。この間はお前いなかったし」
「あー前はGWだったんだー。そりゃ惜しいことしたな」
ほんのりと赤く染まった顔でニコニコと笑う前田。 今度は絶対に温泉に入る!、と宣言している。
温泉ね…。
俺も前田となら行きたいな。 きっと楽しいだろうから。
でも、それは俺には叶わない夢だ。
俺がそこに存在することは認められないから…。

そんなことを思うと、ふーっと意識が現実を取り戻す。
さっきより確実に疼く右肩の跡。過去の自分を消去したくて、自ら刃をふるった醜い跡。
この跡を見た後の俺を受け入れてくれた奴は少ない。
まぁ、当たり前だけど。この跡は奇異の視線を注がれて、見るものを不快にさせて当然だ。
しかし、目には入っているはずなのに、目の前の前田は気にも止めてる様子がない。

俺の過去を知ったら、前田は俺を受け入れてくれるだろうか?

ぼんやりと自虐的にそう思う。

「そろそろ出ようか…」
しばらくそのまま黙ってお湯に浸かった後、俺はゆっくりと立ち上がった。
十一時には人が来る。
俺を受け入れてはくれないであろう人が。

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