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木手永四郎専用部屋(短編)
狡い人 7/8↑




『しっ、黙って………』



貴方は狡いよ、いつもそうやってあたしの言葉を遮る。

嫌な事があると必ず休み時間に教室からあたしを強引に連れ出す。
どんなにあたしが嫌だと言っても掴んだ腕を放してはくれない…
部室に行って必ず嫌がるあたしの言葉をこうやって遮って口を塞ぐ…


「やだっ…もう!木手っ!」


『時間が無いので手短に終わらせます。』


そうやってロッカーに手をつかせて後ろから抱き締めるのは狡い…






弱い所ばかりを攻めて、弱い言葉を囁いて、優しく笑って…
いつも、いつも、丸め込まれてしまう。




『サワー、また構ってくださいね(微笑)』


事が終わると直ぐに教室に戻る。 この関係は誰がどう見ても都合のいい関係


好きだと言われた事は一度もない…


いつも木手のペースに流されて終わる…


なぁなぁで過ぎていく関係も悪くないと思う自分はきっと自分が思ってるよりずっと、ずっと木手が好きなんだと思った。
他にも自分みたいな存在が木手にいるんじゃないかと思うと少し悲しい。
ただ、確かめるのは怖かった…






男『なぁ、ゴーヤー!』
クラスメートの一人が休み時間に声を掛けて来た。あまり好きではないタイプの男子に素っ気なく返事を返した

「なに?」

男『お前やらしてくれんだって?』

「はぁ?」

男『木手ばっかりじゃなくて俺とも遊んでくんない?』

「まじ、意味が分からない!」


男『とりあえずやらせろって言ってんの!』


「はぁ?」


男の背後にいつの間にか木手のにこやかな笑顔…

『誰の女に言ってるんです?殺されたいの?』


男『き、木手!いや、違うんだ!その!』


『何がどう違うんです?詳しく聞かせて貰えませんかね〜!この口がサワーに嫌な言葉を言うんですか?』

男の顎が木手の手の中でミシミシと鈍い音を鳴らす… にこやかに見えるが目が笑ってない…


『サワーを抱いていいのは俺だけです。他の男にもそう伝えて貰えませんか?』


男『は、はひぃ…ずみばぜんでじだ………』

男は顎を押さえたまま床を這う様に逃げ出した。

『サワー』

笑顔の木手はそのままあたしの腕を掴みいつもとは逆の方向へと歩き出した。
視聴覚室の隅にたどり着くと二人腰を降ろした…
いつもならあまり言葉を交わす事もなく行為だけを済ませるのに、今日はただ座っていて肩に木手の頭がのっかっているだけ…


『サワー』

「ん?今日はしないの?」

『したいんですか?』

「いや、別に…」

不意に唇に触れる体温に少し驚きながらじっと木手を見つめる…


『俺が抱きたいと思うのはサワーだけです。』

「………」


『どうでもいい女なら何度も誘いませんよ』


「そう…」


『………俺以外の誘いは受けないようにしなさいよ?』


「………」


『返事は?』


「はい…」


木手は狡い…
その声でそんな風に言われたら誰も断れないよ…
優しい目でじっと見つめられたら断れない…



貴方は狡い人だよ…

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