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木手永四郎専用部屋(短編)
学校が終わったら・・・・・・  2007/09/16↑(前編)編集8/23
「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!泥棒〜〜〜〜〜〜〜!!!」







「勘違いしないでもらえまs・・・・」










「変態!!!!!馬鹿〜〜〜〜〜!!!!」





今私は下着泥棒と格闘中・・・言い逃れしようとする犯人を目の前に絶叫中である・・・・。








私はゴーヤーサワー26歳・・・
一応主婦である・・・・
洗濯物を取り入れようと二階のベランダに出ると下着がない・・・・
下を見下ろすとあたしの下着を手に持った若い男の姿・・・・こっちを見ている・・・・
絶対逃がさないんだから!!!!!!!!!!!!!











駆けつけた警察官に男を引き渡そうと揉める。
まだ言い逃れしようとする男・・・・

「飛んできただけです。俺は取っていません!!!こんな明るい時間に取る馬鹿はいないでしょう?」



「認めなさいよ〜〜〜〜!!!!変態!!!」


押し問答を続ける・・・・
よく男を見ると制服姿・・・
胸には比嘉高の文字・・・
こいつ高校生?
夕日に光るアンダーフレームのメガネ・・・
高校生には見えない変な髪型・・・
どう見てもあたしと同じくらいじゃん・・・
ちょっとかっこいいかも・・・・・








ハッΣ(゜ロ゜〃)








あたしってば泥棒相手になにときめいてんだか・・・
馬鹿だ〜〜〜!!!!







でも一瞬合った瞳が嘘をついている様には見えなかった・・・・・・。







「ちょっと!!!!ゴーヤーさん!!ゴーヤーさん!!!その子やってないわよ!!!」

駆け寄って来たのはお向かいの奥さん。

「え????」

「だから!あたしベランダから見たのよ!ゴーヤーさん所の洗濯物飛んで行くの!!!」

「え!!!えええええええええええええええ!!!!ホントですかそれ!”!!!!」







この後はホントに平謝りで恥ずかしかった。
すまない少年!!!!!


冤罪にしてしまうところだった・・・・・。











あれから一ヶ月・・・・・
あたしは退屈な毎日を送っていた。
何の趣味もない専業主婦のあたし・・・
旦那とは1年前からほとんど話もしない・・・。
家庭内別居というやつだ・・・。
旦那には多分女がいる。
もう怒るほど愛してもないから何も言うつもりもない。
ただ世間体の為にだけ仮面夫婦をしているのだ。
こんな生活やめられるならやめたい・・・・
このまま人生終わるのかと思うとなんだか虚しかった。
そんな退屈な昼下がり食材を買出しに近くのお店に向かった。
ジリジリ照り付ける太陽に頭がぼ〜っとしていた。
いつもより重く感じるエコバッグ・・・・
買いすぎ???





「危ない!!!!!!」
キキイ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!






あたし目掛けて車が近づく・・・
まるでスローモーションみたいにゆっくりと。
住宅街の静けさを切り裂くブレーキ音に目を閉じた・・・・こんな退屈な寂しい時間を終わらせられるならこのまま死んでもいいと思った・・・心の片隅で・・・・何も失うものはないと・・・・







ドンッ!!!!!!!








痛みはない・・・宙を舞う食材・・・・・
空があたしを見てる・・・・
こんなあたしを見て歩行者はどう思うのだろうか・・・
可愛そうなやつだと思うだろうか・・・



ん???
それにしても痛くないな・・・・
即死だから????




ん???
背中痛くない・・・・
アスファルトじゃない感触・・・・
若干軟らかい?????








何もかも一瞬の出来事。
ゆっくりとリクライニングのように起される体・・・
腰に回された太い腕・・・・

「大丈夫ですか?どこも痛くないですか?」
後ろから覗き込む優しい瞳・・・
逆光でよく見えない顔・・・
呆然としている間に救急車が着いた。
どこも痛くないのに念のためにと乗せられる。
あたしを助けてくれた人・・・
誰だったの・・・・??
乗り込んだ救急車の窓から見えた後姿・・・
どこかであった事のあるような気がした・・・。








病院に着いたがどこもなんともなかった。
きっとあの人が庇ってくれたからに違いない。
警察の方に名前を聞いたが、警察が駆けつけた時にはその人はもういなかったと言う・・・。
お礼ぐらいしたかったのに・・・・。








名前も分からないなんて。
またいつもの生活に戻ってもその人の後姿が脳裏から消える事はなかった。
気になって・・気になって・・・。





あの時の帰り道を辿って見る。
同じ時間・・・
同じ歩幅で、ゆっくりと・・・・
事故現場・・今も残るブレーキ痕・・・・・
空を見上げるとあの時と同じジリジリ照り付ける太陽・・・・



道端にきらりと光る物体・・・・
あたしはなんの躊躇いもなく拾い上げた。
真新しい携帯電話・・・・
ゴーヤーのストラップなんて珍しい・・・
きっと落とした人は困ってるに違いない。
近くの交番に届ける事にした。
小さな交番に携帯を預け書類にサインしてその場を後にした。






家に着いて洗濯物を取り込む。
今日は何も飛ばされてないようだ。
あの日のことを思い出し可笑しくなった・・・。



口も利かない旦那のパンツを未だに洗って仕舞う自分が情けなく思えた。
何もかもなかったことに出来たらいいのに・・・。








ピンポーン♪










「は〜い」

玄関を開けると・・・・・・
(違)下着泥の少年・・・青年???





「あっ・・・あの・・・これ・・・・」
その人の手にはさっきの携帯・・・・。
この人のだったんだ。
有難うございましたと深々と頭を下げる青年にあたしも泥棒扱いした事を再び詫びた。
お互い顔を見合わせてクスクス笑った。


「何かお礼がしたいのですが・・・・」
優しい目で見下ろす青年・・・・





「お礼なんていいよ。拾っただけだし・・・・」

「いえ!それでは俺の気が済みませんから。」

「え・・・でも・・・」

「何か俺が出来る事はないですか???」

「ん・・・・・・あっ!!!」

リビングの電球が切れてる・・・
脚立が無いとチビなあたしには届かないがこの青年なら軽々届くかも・・・・
やってもらおうかな・・・・
どうせ旦那はやってくれないし・・・



「じゃぁ・・・お願いしようかな!」

「遠慮なく言ってください!」


あたしはリビングへと青年を招きいれた。
電球を指差し交換して欲しいと頼んだ・・・・。
制服から伸びた長い腕。
安々と電球を回し新しいものと交換する。


「何か拭くものありませんか?」
彼の言葉に我に帰ると慌ててハンディークイックルを手渡した。
手際よく5つの電球と傘を拭き満足そうに笑った。


「他にはないですか?」
旦那の口からは一生聞けそうもない言葉・・・
ナゼか遠慮もせずに彼の好意に甘えた。
仕舞いたかった重たい食器。
動かしたかった大きなソファー。
水漏れしていたドレッサー。
何度旦那に頼んでもやってもらえなかった事ばかり。
彼は1時間もしないうちにやってのけた。






もうありませんか?と尋ねる彼にもうないよと言う自分はすごく幸せな顔だったに違いない。
こんな気持ち久しぶり。






ジュースを注ぎながら彼の名前も知らないことに気付いた。

「あの・・・名前聞いてもいい?あたしはサワー」


「木手永四郎といいます。名前も言わずに家に上りこんでしまって申し訳ありません。」


「ありがと!泥棒扱いしたのに、色々やってもらってゴメンね!!すごく助かった!!!」

「いえ!俺も携帯を拾って頂いたので・・・・それにこうしてまた貴方に・・・」

♪〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!
そこで携帯が鳴り響いてその後の言葉は聞けなかった。

「すみません!俺これから用がありますから失礼します。」


「あっ!!ゴメンね引き止めちゃって!」

玄関へと急ぐ木手の背中にハッとした・・・・
靴を履き玄関のドアに手を掛けた。


「木手君!!!」
振り返りお邪魔しましたと微笑む木手にそれ以上は何も言えなかった。
とても急いでいたようだったから・・・・。










木手の後姿・・・
間違いなく救急車の窓から見えた背中・・・
お礼するのはあたしの方なのに・・・





連絡先も知らない・・・
もう会えないかも知れないとは思いつつ木手の為に何かせずにはいられなかった。
あたしに出来る事と言えばお菓子を作る事くらいだろうか・・・残るものをあげるのは年頃の男の子にとって迷惑だろうから・・・・。
木手の事を思い色んな形のクッキーを焼いた。
テニスバッグを持っていたのを思い出し、ラケットとかボールとか・・・・
あたしの脳みそ小学生並か?????
携帯のストラップからしてゴーヤー好き??
最後の生地でゴーヤーも作った。
我ながら良く出来たはず・・・。








焼いたクッキーを持ってまたあの時と同じ時間・・・
同じ道を歩く・・・・。
会えるかな・・・・・








曇った空の下この年になって高校生の男の子を待つなんて・・・
心の片隅で乱れる思いを「お礼をするだけ!」と言い聞かせた。

事故現場にたどり着いた。
今日は誰も歩いていない・・・。
空が黒く今にも雫が落ちてきそう・・・。

頭のどこかで今日また会えるんじゃないかって思っていたのかも知れない。
帰る足取りは軽くない・・・・
馬鹿だな・・・・・・




いつもは目にも止めない公園のブランコ。
あたしは誰もいなくなった公園に立ち寄った。
寂しい女だなあたし・・・








ポツ・・・・  ポツ・・・・・








冷たい雨が髪を濡らし始める。
色ボケした頭を冷やすには調度いい・・・・
そのまま雨に打たれた・・・
髪から流れる雫が頬を伝う。
濡れた紙袋を抱きしめその場でただ黒い空を眺めた。









「風邪引きますよ」
後ろから聞こえた声に振り返る・・・・


傘を差してテニスバッグを肩にかけた木手その人だ。
何も言葉の出ないあたしにゆっくりと近づき傘に入れると紙袋に視線を落とした。

「風邪を引いたら大変です。家まで送りましょう。」

差し出された左手を取った・・・・・
無言のまま公園を後にした。
木手は何も聞かない・・・。
ふと立ち止まるとあたしを見下ろしている。

「ちょっと傘を持っていてくれますか?」

頷いて傘を取ると木手はテニスバッグに手を入れた。
ゴソゴソと何かを探しているようだ。
チビなあたしが傘を持っているため木手の頭に骨組みが当たりそうであたしは必死に背伸びした。





「俺が使ったもので申し訳ないですが、風邪を引くよりマシだと思って我慢してくださいね。」
広げた大きめのタオルを取り出し、あたしの髪を撫でた・・・・。
見上げた木手は優しい顔であたしを見ていた。




「ありがと・・・・・」

振り絞った声にクスリと笑う木手。

「あんな雨の中誰を待っていたんです?」

「え?」

「その紙袋誰かにあげるんではないんですか?」

ココで渡すしかない・・・・
「あの・・・あのね・・・あたしを車から助けてくれたの木手君だよね?お礼がしたくて・・・」



「何故俺だと?」



「救急車から後姿が見えたの・・・・」




「そうですか・・・・」



「迷惑じゃなかったらこれ・・・」

濡れた紙袋を差し出すと木手は静かに受け取った。
「怪我がなくて何よりです。」

「助けてくれてありがと。」


強くなる雨に言葉が消されていく・・・
せっかく会えたのに心は寂しくなるばかり。
タオルを肩に掛けると木手は傘を取った。



「行きましょう。」
静かに歩き出す・・・・・
何か話したいのに何も言えない・・・・。
息をするのも辛かった・・。





家に着き玄関の鍵を探す・・・

「ゴーヤーさん・・・・」

「はい・・・・?」

振り返ると木手の瞳が優しく見下ろしてた。



「また会えm・・・・・」



ガチャン!!!!!!!
「サワー!!!ドコに行ってたんだ?」
居ないはずの旦那が玄関のドアを開けた。
何もやましい事はないのにあたしの心は動揺していた。

「散歩の帰りに雨が降って親切に送って頂いたの。」

「そうか・・・妻がお世話になりました。」

木手は頭を下げると失礼しますと帰って行った。
タオルを残したまま・・・。








旦那の横をすり抜けバスルームに入ると木手の貸してくれたタオルを洗濯機に入れた。

あたしどうしちゃったんだろう・・・・
認めるわけにはいかなかった・・・。
許されるわけがない・・・。
あたしは自分の心に蓋をした・・・
重くて、決して開かない鍵の付いた理性の蓋・・。






あれから数日ぼんやりとしたまま時間だけが過ぎた。






木手君どうしてるかな・・・・・








タオル返さないと・・・・









とっくに乾いたタオルを見つめた・・・・。








口実はある・・・・









大きくため息をついたあたしはタオルを紙袋に詰め玄関を開けて外に飛び出した・・・・。


またこの道・・・・
この時間・・・・・・



ゆっくりと過ぎる事故現場・・・・・




こう何回も会えるわけがない・・・・








公園通り過ぎようとしたあたしの視界に飛び込んできたのはベンチに座る木手の姿・・・・・・












それと制服姿の女の子・・・・・・









楽しそうに話す女の子・・・・・・








公園の入り口で立ち尽くしたあたし・・・・
動けない・・・・
また大きくため息を付いたあたしはゆっくりと家路に付いた。









胸が痛い・・・・
ご飯ものどを通らない・・・・
誰かがテレビで言ってた・・・・
結婚は脳でする物・・・
恋は心でする物・・・・
だから結婚してたって恋することがある・・・
時に心は自分の意志とは関係なく恋をするもの・・・

断ち切るかどうかは、理性の問題だと・・・。











断ち切るかどうかはあたし次第・・・








次の日あたしは比嘉高へ向かった・・・。
丁度昼休みの学校・・・・
学校の玄関まで来た・・・
事務室に紙袋を預けて帰るつもりだった・・・
隣にある購買にはご飯を買う金髪の少年が一人・・・。



「これをテニス部の木手君に渡して頂けないでしょうか?」

事務員に話しているとその金髪の少年が近寄ってきた・・・。





「永四郎ならもうすぐ来るやっし!待ってたらいいさ〜!!」

え・・・・

もうすぐ・・・?
ココに???








会うわけにはいかない・・・・・








「渡して欲しいの・・・お願い・・・」





あたしは金髪の少年に紙袋を押し付け走り出した。
校門まで全力疾走で走った・・・・。









校門を抜けまたいつもの道までたどり着いた・・・。
公園のベンチに座ると全身の力が抜けて張り詰めていた糸が切れたように涙が溢れた。
何もかもこれで終わり・・
これでよかったんだ・・・
あたしの一方的な思い・・・・
これでいいんだ・・・
またいつもの生活に戻るだけ・・・・
また平凡な主婦に戻るだけ・・・










ふっと人の気配・・・・・
あたしは急いで涙を拭いた・・・・





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