木手永四郎専用部屋(短編)
〜candle〜 12/24↑
12月24日 街はイルミネーションに彩られ、恋人たちは楽しそうにその明かりを眺めている。
彼女の家までは後1時間、飛行機は満席で皆にこやかだった。
吐く息は白く、本土の寒さを痛感した
俺は柄にもなく黒のスーツに身を包み少しだけ緊張していた。
サワーに会って10年、色々な事があった気がします、喧嘩もしたし、遠距離ながら甘い時間も過ごした。
危なげないサワーを見ているのは退屈ではなかった、むしろ楽しい位でサワーなら俺の我儘にも黙ってついて来てくれると思いました。
計画通りと言えばそうかも知れない。
どんな事があってもサワーを幸せにする・・・
空港を出て土産を片手にサワーの家へと急いだ。
サワーはどんな顔で俺を向かい入れるだろうか、きっと驚いた顔で、泣くに違いないな・・・
時計の針は丁度7時をさしていた。
近くの花屋で買った真紅のバラを隠してサワーの部屋のベルを押した。
ピンポーン♪
「はい」
出て来たのは俺が期待した彼女ではなかった。
見知らぬ男、背は俺よりも高くガッシリとした男、首を傾げる男に部屋を間違えたかと表札を確認するが間違いではない、ここはサワーの部屋。
「どちら様?」
不機嫌そうに尋ねられて眼鏡を押し上げた。
永「ここはゴーヤーサワーさんのお部屋では?」
「あぁ、そうだけど?」
永「サワーさんは?」
「あぁ、あいつなら今風呂だけど・・・」
永「失礼ですが、貴方は?」
「あ、俺?ん〜彼氏かな。」
永「・・・・・・」
「んで、あんたは?」
永「花屋です。ゴーヤーサワーさんにお届けにあがりました。これを・・・」
俺は後ろ手に持っていたバラの花束を差し出した。
男はその花を受け取ると早々に「どうも、」とドアを閉めた。
はぁ〜〜
その部屋を後にする俺はなんとも言えない脱力感に襲われた。 思えばこの数ヶ月、俺は本土に行く飛行機代にプレゼントを用意するためバイトを掛け持ちしていた。
サワーの事を疎かにしていたのかもしれない。
遠くで何をしているか分からない彼氏より、近くでいつも一緒にいてくれる男のほうかいいのは当然かも知れませんね・・・・
駅に向かう途中で大きな橋に通りかかった、真っ暗な川は俺を馬鹿にしているかの様にただ荒々しく流れていた。
ポケットから出した四角い包みを思いっきり投げた。
ポチャリと落ちた包みはプカプカと俺の下を流れていく、空を見上げて溜息を落とすと足を進めた。
もう何もかもこれで終わりですね。
首元を締め付けているネクタイを緩めると駅へと近づく、時刻表にしばらく足止めされてベンチに座った。
周りは恋人達だらけで、今の俺には目障りだった
こんな事になるなら本土まで来なければ良かった。
いつもは強気な俺も恋愛となれば話は別だ。
最愛の人に裏切られた傷は癒えそうもない・・・
電車を待つ間サワーとの色々な思い出が走馬灯のように頭を過ぎる。
華奢な体、細い指、長いサラサラの髪、俺を呼ぶ声、笑った顔、サワーの匂い、何もかも俺にとっては宝物だった。
かけがえのない人だった。
どんなにかっこ悪い俺も愛してくれた・・・・
(なんくるないさ〜)
慣れないうちなーぐちを真似してそう言ってくれた。
サワーの笑顔に何度助けられただろうか、大切なものがなくなるってこんなにも辛い事なんですね。
俺は次の電車に乗り込んで空港へと向かった。
何処も彼処も恋人達ばかり・・・・
X'masが嫌いになりそうですよ。
逢いたい人には逢えない
俺の何気ない一言がサワーを遠ざけたのかもしれない。
こんな結末を迎えるなら、好きにならなければ良かった。
チケットを持ってゲートへと向かう。
もう二度と本土へ来る事はないでしょうね、こんなに切ない思い出の場所に来るなんてない・・・
こんなに苦しいのに・・・
こんなに切ないのに・・・・
サワーの事ばかりを考えてしまう・・・・
サワー・・・・・
幸せになりなさいよ・・・
空港はcandleが灯され幻想的な雰囲気で俺を見送る、那覇行きの飛行機の搭乗が始まり俺はベンチを立った。
「永四郎!!」
未練たらたらですね、ここまで来て彼女の声が聞こえるなんて・・・・
俺は幻聴に振り返らず荷物を肩に掛け直した。
『永四郎!!!!』
荷物検査を受ける列に並び順番を待つ俺は再び幻聴に襲われるが振り返る事はしない。
もう終わった事だ、来るはずもないサワーの声など聞こえるはずもない、たまたま永四郎と言う名の男がもう一人いるだけだ・・・
『『永四郎!!!!!!行かないで!!!!!』』
大きな声に思わず振り返る。
見間違うはずはない、生涯でたった一人愛したサワーの姿。 息を切らし、ぽろぽろと泣きながら俺を呼ぶ声・・・・・
荷物を投げ捨てて並んだ列から飛び出すと仕切りのテープを飛び越えサワーを力の限り抱きしめた。
永「何で来たんです・・・?キミにはもう・・・」
「違う!違うの!!あれは従兄弟なの悪ふざけしたみたいなの・・・・・信じて・・・・永四郎が来ると思わなくて・・・っ・・・ごめんなさい・・・・」
永「そうでしたか・・・」
「ごめんね、ごめんね・・?」
永「俺の方こそ約束もせずに押しかけてすみませんでした。」
周りの視線など気にもせずサワーを抱きしめた。
サワーの家へと戻る空港からの道、目障りだったカップルは気にもならない、橋の上に来て思い出す投げ捨てた包み。
ふと橋の下を覗き込む、とうに流れてしまった品物を残念に思いながらも再び足を進めた。
サワーの部屋に着くとX'masの飾りにcandleでいっぱいだった。
「永四郎 Merry X'mas!色々迷ってて送り損ねちゃって・・・ホントは今日送ろうと思ってたの(苦笑)」
サワーのからのプレゼントは香水だった
「近くにいられない分、この香水をつける度にあたしを思い出して欲しいんだ。(笑)」
蓋を開け、手首に香水を振り掛けると俺好みのいい匂いが部屋へ広がった。
そのままサワーを包みこんでサワーの匂いと混ぜる・・・・ サワーの香水の匂いに欲情しながらゆっくりとその場に組み敷いた。
離れていた分愛してあげます、キミが俺を忘れないように。
どんなに離れていてもサワーは俺の物だと、いつだって分からせてあげます。
来年のX'masは、キミを世界一の花嫁にしてあげますからね。
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