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ぼけつのさき
道の選択
放課後になり、私は周りから向けられる色々な意味がこもった視線を流しながら昇降口で雪チャンを待つ。平のマネにならせてあげる、と私と会話した後、一緒に行くことをお願いされたのだ。
綾乃としては面倒なことこの上無いのだけれど一緒に行くぐらいで仕事を全部やってくれるなら行ってやるわ。それに、信用してからの方が操りやすいし、ねぇ?
トンっと靴箱に寄りかかった時にパタパタと走ってくる音。
そして近づいて来る雪チャンの姿。
「すッ…すみません!綾乃先輩っ…!待って貰っちゃって…!!」
__本っ当にね?女で綾乃を待たせるなんて後々の対価を払ってもらわなかったら絶対叶わないわよぉ?
「いいよ全然気にしないで!早く行こっ!」
雪チャンに二コリと笑いかけて足を動かす。きちんと雪チャンが赤くなったのを視界に入れながら。
固まっていた雪チャンは小足で私の後を付いて来てすぐさま口を開いた。
「あ、綾乃先輩ってすごく可愛いですね…っ!」
興奮しているのか若干早口な雪チャンに二コリと笑いながら答える。
「そうかなぁ?雪チャンも可愛いって綾乃思うよっ!」
「わっ私なんて全然っ…」
ニコニコしながら雪チャンの顔を見てその様子を観察する。照れながらもフルフルと頭を揺らしながらも否定する雪チャンに「そうだねー別にアンタ良く見ても中の中の上ぐらいだしねぇ」なんて思いつつも自分の髪に指をからめた。嫌味も判らないのかしら。
それにしても女から褒められたのって何年ぶりかしら…?随分と久しぶり。媚打ってテニス部に近づこうとしたバカ達は置いておいて。
でも私『可愛い』って言葉きらぁい。
綾乃が可愛いのは当然のことだし、それにその裏にはいつだって嫉妬が隠れてるでしょ?
醜い醜い真黒な嫉妬が。
「わ…私…ずっと綾乃先輩に憧れてたんです…。」
ちらりと眼だけで雪チャンを見る。
雪チャンは頬を赤く染めながらも地面を見ながら歩き続けている。
「毎日花のように可愛く笑っているのに一人でテニス部を支えていて…」
綾乃は笑っているだけでよかったのよねぇ、今からも、だけど。
「テニス部の皆さんも綾乃先輩を慕ってる…
とっても…とってもいい関係ですねッ!」
「うん、本当にテニス部は素敵な人達ばっかりだよっ!」
___えぇ、本当に。イイ人達ばぁーっかり。
テニスコートに近づくにつれて聞こえる身も弁えないバカ女たちの声。まだレギュラー達が集まって居ないのか奇声は聞こえないけど、存在がうざい。不細工なくせにそれ以上に不細工な行動するバカばっかり。好きな人が出来たんならまずは自分のベースから直しなさいよってねぇ?ま、ベースを直しても綾乃に勝てないことぐらい当然だけど。
「ま…毎日窓から見ていたんですけど…実際見ると本当にすごいですね…」
「だよねぇ。」
そんな会話をしながら女どもをよけてコートに入っていく。途中聞こえる雪チャンや私への罵声は完全にスルーして。
コート内に入って部室の方へ歩きながらちらりと雪チャンを見る。雪チャンは私の方を向きながら口を動かしたと思ったら何も言わずに歩いている。
…さっきの罵声、気にしたのかしら。あぁーもぅ、女ってこう言う所が面倒。
「何?どうかしたの?雪チャン」
「ぁ、え、と、あれって…いつもなんですか?」
「女の子達の事?うん、いーっつも。」
二コリ、とチャンに微笑みながらもガチャリと部室の扉を開ける。中には亮とチョタがすでに来ていてソファーに座っていた。扉の音にチョタがこちらを向いてすぐさま口を開く。
「あ!綾乃せ…、誰、ですか?…その人。」
だめだよぉ、チョタ?そんなに警戒心むき出しにしてちゃあ。
綾乃が心配なことは判るけどねぇ。
心の中で笑いながらもチョタの言葉に反応したのか亮もこちらを見ているのを確認して口を開く。
「新しいマネージャーだよっ!」
「ぁ、新しいマネージャーですか…?」「……。」
視界に入れていた二人の顔が見事に警戒心丸出しな雪顔でチャンを睨むように見ているのを見て、心の中で笑みを深くする。
___綾乃、判りやすいひとってだいすき。
その心中を出さずにすかさず雪チャンの前に庇うように立ち、口を開く。前に出る時にピくりと雪チャンが肩を揺らす。
「雪チャンはいい子だよっ!それに今回は平部員専用マネだしっ!」
「……。平部員専用…ですか?」
一つの単語が気にかかったのかチョタが口を開く。眉はしっかり寄せられたまま。
「うん。それにチャンは綾乃の大切な友達だからねッ!
……雪チャンに何かしたら綾乃、嫌いになっちゃうから!」
つんっと口を突きだして言葉を発する。これはとりあえず今は本当。せっかく手に入れた綾乃の召使。中々探してもこんなに綾乃の希望に適った子はいないもの。
すると途端に慌てだしたチョタと亮。
「なッならいいんですが…お、俺は綾乃先輩が心配で…!」
「前の事があたからよっ…そんなつもりじゃ…!」
「なら、いいけどねッ」
二コリと綾乃がほほ笑むとほら、ホッとした顔。
綾乃は笑うだけでいいの。
笑うだけで皆嬉しそうになるから、笑っていたほうがいいでしょ?だからレギュラーの応援に力を注ぐの。笑っているだけで皆が勝手に喜んでくれるから。私何も悪いことしてないわよね?皆が私の笑顔を求めるから、綾乃は笑ってあげてるんだよ?皆が悪いのよ?皆が殺したのよ?
クスリと笑って、話を進める。
「それで、きっと後で景吾からも説明あると思うんだけどとりあえずこちらが片平雪チャン!」
じゃーん!なんて効果音を入れつつ雪チャンに手のひらを向ける。
「平部員専用マネで、綾乃の新しい友達なんだっ!とってもいい子で2年生なんだけどね!」
ふふ、と笑いつつも紹介をしているとやっぱり不信感が募っているのかレギュラーの二人は好感的な視線は送っていなかった。
あーあ、こいつらもバカばっかり。いじめているのは綾乃の方なのにねぇ?
ニコニコ笑顔を続けたまま雪チャンに視線を送って「ほら、雪チャンもっ!」なんて言いながら肩を押した。
「ぁっ…!え、えっと片平雪です!よ、よろしくお願いします!」
ガバっと頭を下げた雪チャンに、雪チャンの目の前にいる二人は冷めた視線を送る。
「………綾乃先輩の邪魔になるようなことはしないようにお願いしますよ。」
「行くぞ、長太郎」
「ハイ。」
ガチャリ、との音が響いてから雪チャンは顔を上げる。
「ごめんねぇ?雪チャン」
「あ…、い、イエ大丈夫です…。」
下に顔を向けたまま返事をした雪チャン。嫌われると言う事に慣れていない様子ね。
ま、雪チャンが何かしなければそんなのに慣れる必要はないんだけど。でもね雪チャン、貴女が下手なことしたら嫌と言うほど慣れなくちゃいけない環境になるんだよぉ?
ぐらぐら揺れるこの子の足場に思わず目を細める。
「さ!早速部品の説明するから行こ!」
「あ…ハイ!」
ガチャリ、と部屋の扉を開いて外に出た。
これから雪チャンがどんなお話を紡ぐか、期待に胸をふくらませて。
主人公は雪チャン、主人公が綾乃じゃ無いのは赦せないけど最初の道は決めさせてあげる。
迷子にならないように、気を付けてね?雪チャン?
隠れた言葉ありですー
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