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ぼけつのさき
開幕のベルは止まらない。

ザァ───



「ハァッハッ…っ」

バシャッバシャッ!!





後ろから男達の怒鳴り声が聞こえる。足が痛い、気持ち悪い、雨が当たる、寒い、苦しい。
でも逃げなくては。何をされるか解らない。











──どうして…
どうしてこうなったの?

どこから私の人生は狂った?









あの女。

あの女が出てきてから私の人生は狂ったんだ。






赦さない。

赦さない赦さない赦さない!!!









複数の足音から逃れるために路地裏に入って壁に背中を預ける。
すぐに複数の足音が近づいてきて何やら話し声が聞こえる。

心臓の音がうるさい、自分の呼吸する息の音でさえうっとおしい。


「あの女何処に行った!?」
「わかんねぇ。
チッ、あの女許せねぇ!!」


ドンっ!!
壁伝いに振動が来る。思わず
ビクリと反応するが、雨の音が自分の存在を隠してくれたようだ。男達は気付いていない。



「そんなことよりあの女を逃した俺たちの方がヤバイだろうが!!!」
「そうだな…とにかく早く見つけねぇとっ!」
「ああ!」


バシャリと水溜まりを蹴る足音が聞こえ、音はどんどん小さくなって行く。
確認するために首を動かしてそちらに目を向ける。どうやら男達は居なくなったようだ。






「ハァ…」


首を戻して壁に寄りかかったままズルズルと座る。今さら制服の汚れなんか気にしない。走ってくる時…いや、走ってくるずっと前からこの服は汚れていたんだから。今更そんなこと…

もう、どうだって良い。








どうして私が逃げなくてはいけない?
私が何をしたって言うの?







赦せない…









この状況の不愉快さに眉を寄せて暗闇の中まっすぐを睨む。





そうして目に入ったのは、細く薄暗い路地裏にポツリとあった一つの扉。

───勝手口か何かかな…。でもそれにしては扉が上等な雰囲気が…



なんとなく気になって、雨と傷で重くなかった体を動かしその扉に近づく。



「『何でも承ります』…?」



どっしりした木の扉に彫ってあった小さな文字を口に出す。

こんな処に店なんて置いて大丈夫なのかな…。って言うか『何でも』って……。




ホントウに?



何でも?








ガチャリッ!!!


勢いをつけて扉を開く。
そこには小さなカウンターとイス、そしてカウンター奥には妖艶な美女と外人風の男性がそこにいた。


私はカウンターをドンッと叩き、女を見据えて口を開く。






「『何でも承ります』って本当?」
「ええ。」

グロスの乗った唇が弧を描く。






「依頼がしたいの。
それを叶えてくれるならなんでもする。」

「どんなご依頼でしょう?」








「復讐を。」





赦さない








赦さない。
私にこんな目に合わせたあの女…イヤ、これまで信じ続けていたあいつらも赦さない。








「氷帝学園三年の下山田綾乃…
……そしてそこの男子テニス部レギュラーを殺……いいえ…、死にたいと思わせるほどの生き地獄を。」





一回死んだぐらいじゃこの私の苦しみは解らない。
せめて、私と同じ状況になってくれないと。
そうしないと私の苦しみを理解できないでしょう?






女は私の目を見て大層愉快そうな顔をして口を開いた。








「えぇ、承りまりました。

それではまずは……」




『承る』と言った女を驚いたように男が女を見たが、すぐに無表情になった。
……?依頼を受けることが珍しいのかな…。
あ、そう言えば…


「あっ…。そう言えばあの、私、お金は今あまり持ち合わせていないんですけど…」



クスリ、と女は怪しく微笑み、口を開いた。



「いいえ、そんなことは置いておいて…まずは貴女は『何でもする』とおっしゃいましたよね…?」
「え…えぇ。」



冷や汗が流れる。
さっきは興奮して言葉にしたけれど…









「では…まず、


死んでください。」

「え…???」









そしてその数日後、依頼人である男子テニス部マネージャー、白川果歩が校内で遺体として発見されることにより、この物語は始まる。








もう、賽は投げられたのだ。


止める術は、もう無い。









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あきゅろす。
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