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ぼけつのさき
退屈しのぎの墓参り











薄い雲の膜が纏られている空。
そして少しだけ肌寒くも感じてしまうような少し低めの温度。
すがすがしいいつも通りの朝は小鳥のさえずりとともに訪れていた。
そしてそのいつも通りの一日の始まりはいつも通り部活な訳で。
ふぁあ、なんてあくびを零しながらも氷帝学園への道のりを歩いていく。







朝練…眠…








しぱしぱとまだ覚醒しきっていない自分の目を眼鏡を気にせずこすりつつ、学園へと向かう足を動かす。
こんな状況の自分を見たらあの部長様は必ずしも喝を入れるだろう。
それは面倒なのでご免こうむりたい。
それもこれも朝に気合いを入れる必要が無くなったお陰で。
自分の気に入っていたマネージャーが朝練に来なくなったというのも大きな原因の一つだろう。
…昨日夜遅くまでDVDを一人で見ていたのも、まぁ原因ではあるだろうが。







学園は見えてはいるもののやたら敷地が広くて校門までが遠い。
イライラを募らせるほど自分の頭は回転しておらず、とりあえずとぼとぼと足を進める。
スピードが遅いのは気のせいって事で。







「……。」






彼女が朝練に来なくなってからどのぐらいが経っただろうか。
何気に綾乃がレギュラー専属マネになってから大体1年半と続いているが、結局来ていたのはマネージャーになって2か月ぐらいまでだっただろうか。
その時は何とも自分もショックを受けたものだったなぁ、と何とも随分と昔の事を思い出す。







うーん…綾乃がこーへんと、つまらんわぁ…








彼女の行動は面白い。
そしてその部員達の反応も。










「おーゆうしー!」








声がした方に振り向くと、相も変わらず赤い髪が特徴的な自分のパートナー、向日岳人がそこにいて。
ぱたぱたとこちらへ駆けよって来ていたのでその場で足を止めておく。







「はよっ!」

「おはようさん」



朝から元気な相方だわほんま。



「今日時間違くね?いつも会わねーのになー」

「今日は少し寝坊しもて」

「まぁた気色悪い映画でも見てたんだろー」



そして野生の勘もエエ、と。



「ちゃうて、ちょーっと女の子といちゃラブしとったんよ」

「侑士も好きだなーいつか刺されてもしんねーぞ」

「がっくんは綾乃一筋やもんなー?」

「なッ!ちッ違えよ!クソクソ侑士!」


そんでもって素直な相方やね。





顔を赤く染めながらもずんずんと歩いて行く岳人。
にやにやと笑いながらもその後ろ姿を見つめながら自分も足を進めて行く。






ほーんま、アホな相方やなぁ






あんな下種を好きになるなんて。











ちろりと相方を見下ろすと照れているのだろうか眉がくいッと持ちあがっていて。
あー…一途な少年の恋路を見守るのもなかなか楽しいなぁ、なんにクスリと笑みをこぼした。
この少年の恋路が実る可能性なんてゼロに近いのは知っていたが。





思えばこの相方は綾乃に恋に落ちてからすでに1年も過ぎているのか。





可愛らしいマネージャーを1年間以上慕い続け、想いが詰まって詰まって詰まりまくって溢れて彼が想いを伝えてしまったとき、彼女はどう反応するのだろうか。やはり多くの愛を受け止めるために断るのだろうか。がっくんには悪いがそれを受け入れるとは思えへんしなぁ。いや、彼女が本当の愛(笑)に気が付いてがっくんに傾くフラグも無きにしもあらずが。それはそれで面白いが。…もしくはそんな話が出てくる前に何かしらの彼女のミスで彼女の本性が出てきた時、その時彼、そして周りの彼等はどう反応するのだろうか。



きっと自分以外の男子テニス部は彼女の悪行を知らないだろう。



跡部は何だかんだでアレでも学園へは気をやすめるために来ているからだろうか詰めが甘い。
家だなんだで人を疑う心を持っていようと、一度心に入れたものを疑う事は無いに近い。
その他の岳人含む他の部員は話にならない。
綾乃が涙を流すことがこの世の罪であり、そして綾乃の零す言葉がこの世の真実なのだ。
疑おうとさえ思っていないだろう。


綾乃の賢い所は本当に半年近くまでは彼女自身でマネの仕事をして、それを熟知しているところだ。だからこそサボっていい部分とやらなくては疑われるだろう部分を理解している。むしろ感心までしてしまうわぁ。
短期間であれ、仕事をしていたからこそ彼女は部員の内側に入れた。
だからこそ大きなきっかけがない限りは気が付きはしないだろう。

そんなテニス部、下山田綾乃を中心とした何とも奇妙な相関図。








あぁ、なんつー面白い話なんやろう!










そんじゃそこらのDVDの話とはわけが違う。
もうすでに1人の命が奪われてしもた。
白石果歩。俺達のマネージャーだったえらい可愛らしい女の子。
気がちと強めの女の子であの子を落とすのも何だかんだで楽しそうやなって思った。
果歩ちゃんも可愛くて気にいってたで?足も綺麗な子やったしな。泣き顔も可愛かったわ。頑固なところもええ。
流石にこの子一人が自殺したって聞いた時はびっくりしたわ。なんせあの子はどう考えても自殺しそうになかったからなぁ。
あーらら、誰かしらやっちゃったんやなーって思た。
今から医者になろうとしている自分や。人一人の命が亡くなったのはそら大きいし、ヤバいわって思った。




けど今さら何かしらしたって遅いやん




なーんもできん。
何かしても生き返りもしないし結局は終わってしもた。今さらどうしようもないやん
けど果歩ちゃんにはなんの恨みもないし、むしろ恨まんとってな、ってお墓の前で手ぇだけはあわせた。
ついでになんで死んでしもたん。と。楽しみが減るやん、と。
他の部員は彼女の墓の場所さえ知らないだろうし、手を当てることもないだろう。
自分のこの行動を知ったとき、それこそ彼等はどう反応するのだろうか。









「お、やっぱもうやってんな」

「自分等が来るの遅かったからなぁ」







パコーンパコーンとテニスボールの音がする。
いつの間にか部室の前まで来ていたようだ。ガチャリとドアを開けるとそこには新しいマネージャー。
確か、片平雪ちゃん、やったっけ。




「あ、おはようございます!」



うん、爽やか100%の挨拶やね。笑顔もまぁまぁ。
それにするりと冷たい視線を送りつつ、自分は着替えるために足を進めた。岳人も大して対応は変わらないようだ。
雪ちゃんが少し寂しそうな顔をしたのをしっかりと視界に入れつつ、さくさく進んで部屋に入る。
部屋に入ってからは岳人とできるだけ楽しそうに。綾乃の話なんぞを交えながら綾乃が好きな一テニス部員としての忍足をやっていく。
そう、いつも通りと言うか今まで通りの行動だ。






これで綾乃がつけあがればいい。
そして何かしら行動を起こすこと、そういう姿を観察することこそ、それこそ自分の楽しみの源であり、生きる糧となるのだ。






そう、自分では信じてた。










そういうタイプの人間なんだと、確かにその時、俺は信じてたんや。


















それぞれ違う人間だから、愛でる方向も理由もちがう




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あきゅろす。
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