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ぼけつのさき
いつもの朝










午前7時36分。
野太い大声が氷帝の大きなテニスコートに広がり、一気に活気づく朝、氷帝テニス部は何時も通りの朝の練習が始まっていた。
テニスコートの外では相変わらず迷惑極まりない女子の大群があって思わずぐっと眉を寄せる。あんな煩ぇ声はいつまでたっても慣れねぇ。


朝だからという事でまだ小さめその声でも、今現在テニスをしていない状況の俺にはうっとおしくて仕方がない存在だ。綾乃が朝は居ない今、自分を癒してくれるヤツは居ない。
そのことを思い出してハァ…と息を吐くものの、自分の手は休めずに目の前の選手たちに目を走らせながらもカリカリとペンを走らせた。









新しく最近…とまでは言わねぇが比較的新しい制度が導入された。
もともとこの部活の監督は中々練習中に顔を出すようなヤツじゃなかったし、(そもそも監督は本当にテニス部顧問でいいのだろうかと思う瞬間さえある。まぁ跡部が部長ならあの派手なやつが監督でも頷けると言えば頷けるが。)レギュラーは自身の練習で手一杯だった。氷帝の決まりで負けたらレギュラー落ちって言うのも効いてんだろ、練習なんて平、準レギュ、レギュラーときっちり分かれて行ってきた。



が、長年続いてきたこの練習方法だが、何を思ったのか監督が急に練習方法を変えてきた。




あの時に言い出した監督の姿を思い浮かべる。
あん時はスカーフは紫だったことが妙に印象的だった。そして「平や準レギュの育成」だと言う説明をくどくど言っては最終的にはこう提案した。と言うか命令した。






レギュラーが、平や準レギュの練習の様子を見ろ、だとぉお…?








手に持っていたファイルからビキッ!と音が聞こえた。それと同時にビクッ!と周りの生き物が揺れた気がする。









後に語る平部員のSは「アレは確かにキレていたな。周りの平部員も宍戸の顔を見てかなり怯えて顔が真っ青だった。ちなみに偶然見ていた岳人も泣きそうになっていt「な、何いってんだよ優斗!」」と語ったそうな。











ふざけんじゃねぇ…大体平でも準でも監督こそが練習の様子見て変な癖だとか何だとかを指摘する役だろうが…!もともと氷帝の負けたらレギュラー落ちとか言う決まりを決めたのはアイツだろ…!?何で俺がこんな平の面倒見てそんでノートにその細かい内容やら何やらの注意点を書かなくちゃなんねぇんだよ…!こんな時間があったら練習してぇのに…しかも一週間…!ふざけんじゃねぇ…!




脳内では「行ってよし!」と紫のスカーフを揺らしながらのバカらしい監督のポーズが思い浮かんでさらに眉を寄せる。そんな事を思いながらもカリカリと動くこの右手で書かれたこの表が自分のA型性格を表していると言う事が何とも悲しい。



はぁ…
と、何とも深くため息をついて仕方なくも再度平部員の練習を見るために目を上げるとそこに見えたのは長太郎と新しい、マネの姿。




「…?」




にこやかに話すその長太郎の対応は綾乃への対応とは大して変わらない様子で。そんなのは今まで全然例が無かったので思わずじッと見つめてみる。何やってんだ長太郎、そんなマネなんかと…。

確か新しいマネとは昨日の放課後…






『な、何でッ…何でそんなに…笑っていられるんですか…!そ、そんな日を送ってきたのに…なんで…ッ!う…ぅう…』






…泣いていた、な。






………。


正直に言うと、あの時向日が言わなければ俺が言ってしまいそうになった。「泣くな」って。別に女の泣き顔なんて何度も見てきている。変な意味じゃ無くてこの部活のこのマネージャーが何人辞めて行ったのかさえ分からないこの状況で、泣いて部室を去っていく…学校を去っていく女なんて何度も見てきた。だから泣き顔なんて…いい経験ではねぇけど少なくとも普通の同い年の男よりかは見ていると思っている。だけど、


だけど、あの新しいマネの泣き顔は誰よりも純粋だって、想った瞬間があって。







今になってみるとどうしてそんな事思ったのか分からない。女なんて信用できないのは当の昔に学んだし、綾乃と比べたら全然容姿がいいと言う訳じゃぁ決してねぇアイツの顔、涙。
…あの新しいマネが信用できるかって聞かれたら俺はあのマネとも会話もしてねぇんだ、そんなの判断出来ねぇし、したくないって思ってる俺もいる。
簡単に、判断して間違いたくはない。これは綾乃のためでもあるし…実際のところあの新しいマネのためと言われたらそうなのかもしんねぇ。俺自身のためでもある。

ただ、いつもとは違うとはすでに思っている自分も居る。





「意味わかんね…」





クシャ、と自分の頭をかいた。














「大丈夫、ですか…?」






ぴ、と自分の体が固まった。顔は動かさずに眼だけを動かし、自分の髪の間からその声の主を見る。
セミロングの髪に茶色の瞳、手にはタオルを持ってこてんと頭を傾げた、新しいマネの姿。


固まって何も声を発しない俺に焦ったのかマネはそのまま突き進む。





「え、ちょ…ほ、本当に大丈夫ですか?体調が悪いならほ、保健室に行くか早退したほうが…」




「……い、いや…平気だ。…」





そう言葉にしながら改めてマネに向き合うと眉を寄せたマネが居て。昨日の放課後の事があるので微妙な反応になって。いつも俺ってどんな風に綾乃以外のマネに対応していたっけな…。長太郎は何でそんなに普通に対応出来ていたのか不思議で仕方がねぇ。





……、あぁ、でも。






『大丈夫ぅ?亮くん?』






…こうやって何人ものマネが近付いてきた記憶がよぎる。

甘い声、匂い、するりと腕に触れたわざとらしい手、見上げてくる瞳。














気持ち悪ぃ。







目を細めてファイルを持ち直し、スッとマネの隣を通り抜ける。







そうだ…いつもこうしてたじゃねぇか。今回の俺はおかしいんだ。女の新しい方法に戸惑って混乱してるだけだ。こんなのはこのマネの思うツボ。こいつらマネは皆一緒なんだ。騙されるのがオチだ。何時も通りにしろ。






…俺は変わらねぇ。靡かねぇ。


何度も繰り返させてなんかやんねぇ。



綾乃は、唯一俺達のことを考えてくれるマネだ。そんな綾乃をいじめる可能性のあるような女なんかに俺は靡かねぇ。






通り過ぎた瞬間の寂しそうなマネの目が、頭に残っているのだって、マネの思惑の一部だと思い込んで、再度平の練習の姿を眺めた。



















「…………。」











































___ピッ





___相変わらず一日変化なし。テニス部マネージャー三年下山田綾乃も部活に顔を出すことは無く、大きなトラブルは起きていないようです。前おっしゃっていたようにもし、新しいマネージャー二年片平雪を何かしら使う場合は連絡を下さい。では、引き続き監視を続けます。




_ピッ














テニス部マネージャー朝練1日目、無事終了。
























ちょっと短くしてみた。
感想などどぞどぞ!
もうこんなアホ臭い…げふんげふん、可愛いのだいすきだ!







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