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ぼけつのさき
上を目指す壁




















朝6時48分。





パコーンパコーンと、今となってはもうすでに慣れたこの音。
その音を気にすることなくただ黄色を追い続ける。
ザッと足音を立てながらも球を前の壁へ打ち返し、視線を外すこと無く反対側へ走り出す。





「ハッ…はッ…

っくッ!」
__パァン!!!








「はぁ…はぁ…っ」





最後にスマッシュを打ちつけて足を止める。
少し休憩するか…、そう思いながらもくるり、と後ろを向くとそこには目を見開いた女子がひとり。こんな朝早くに人がいることに驚きながらもそいつを見ていると、そいつは妙に不満そうな顔をしていて。






こいつ、確か…






ハッ!となにかに気が付いた様子のそいつは部室のほうに走って行く。
妙に急いだ様子に何も考えることなくただ眼で追うものの、すぐさま思考を切り替える。



あいつ、確か…。



昨日の部活の時に紹介された、確か片平。新しいマネ。
マネージャーなんて部の心を乱すだけだ、俺には、関係無い。持ちたいとも思わない。今までのマネだって散々だった。
跡部さん達が力を落とすなんてへまさえしなければ俺にはどうだっていい存在。
ただ、俺は下剋上できればいい。








ベンチに座り、朝独特の涼しい空気を肌で感じる。鳥の声が聞こえて冷たい風が流れた。
視線を上げると薄く膜のような白い雲の所為で蒼の空が今日は水色だった。でも差す光は決して弱くはない。きっと今日もいい天気が続くだろう。練習日和な天気が最近はよく続いていていい事だ。
ふぅ、と胸に大きく吸い込んだ空気を吐き出し、練習に再度打ち込むために立ち上がる。
















きゅっとラケットを手に持ち、黄色を上へ投げ、それを打ち付ける。

テニスは、好きだ。基本的な動きは武術とは全く違うものの、いつも相手は目の前にいる敵のようで自分自身。精神的なものが結局はモノを言うこの世界。そう言う部分が武術似ていて、俺はソレが好きだった。
いつだって試合に勝つときは俺自身に勝てたこと。試合に負けた時は俺自身に負けたと言う事。勝てば勝つほど自分自身に下剋上できる。





__パァン!




「ハッ…」




ザッ!
__バァン!!





俺は、俺に下剋上したいんだ。
























「毎日頑張ってるな、日吉。」


くるり、と視線を向けると毎度同じように朝練の前の自主練をする人。


「佐藤、さん…ッ」



ハ、ハッ…と息絶え絶えに名前を紡ぐ。


「だから佐藤は止めろ。この部に4人は佐藤居るからな。」

「はぁ、」




「じゃあなんて呼べばいいんだ…」なんて思いつつも先輩を視界に入れる。
ぐりんぐりん、と腕を回しストレッチしている先輩を無言で見続けるが先輩も何も気にする様子はない。











俺はこの人が苦手だ。









向日先輩と同じクラスの確か佐藤優斗先輩。俺の1歳上で、平部員。
蒼と黒の混じった髪の先輩で、跡部さん達と同じようにモテる、と言う話を確か周りの女子が言っていた気がする。
そんな事はどうだっていい。俺が気に入らないのはこの人が平部員と言う事だ。どうしてこの人が平で俺が準レギュなんだと準に上がった時はよく思ったものだった。



レギュラー達や先生は見ていない。
そもそもレギュラーが平と部活中に接するときなんて今は前と比べて多くなったと言ってもいいものの、ほんのわずかな時間だ。先生は部活に顔を出すこと自体も少ないのに出してもレギュラーに目を向けてしまい、気にもしない。








だけど俺は知ってる、この人は、強い。










確か他にもそんな部員が何人か平部員に居た気がする。
200人近く居るテニス部でそいつの名前はよく覚えていないが確かにそいつらは強かった。ずっといつでも強い訳では無い。時たま見せる視線に、「コイツは強い」と判断できる。それを抜けば平レベルなのは頷けるのだが…。でも見え隠れするテニスの先鋭されたセンス。準になったばかりで平として練習をしていた俺には判る。それなのにこの人は力を見せつけることはない。と、言うより興味がないようだ。上へ行こういという気持ちが見えない。それが…自分に挑戦しようとしない気持ちが苦手なんだ。隠すように実力を出していないと思うのは俺の気のせいなのか…?


練習は確かに毎日朝練の始まる前から自主練をしている。今がその状態だ。練習中もメニューを抜くなんてもっての外、余った時間を筋トレに回している様子も見た事がある。なのにそどうして力を出し切らない、そう思う。きちんと備わっている実力、部活に入ってきっと新たに付けただろう力。腕や足の筋肉やら、マラソンの時の呼吸やらで力が身に付いているのは目に判るのに。





そもそも佐藤先輩はテニスが好きなのだろうか…?


………。
















「おい、そのドリンクお前のか?」




「は…」






佐藤先輩の視線を辿ると先ほどまで座っていたベンチの上。そこにはタオルとドリンクがセットで置いてあった。さっきまでは確か何も無かったはず…。

ベンチに足を向けてそのドリンクを手にしてみるものの、それはいつも通り部活中に出される学校専用のドリンクボトル。しかもすでに冷えた状態。
、あいつか。



………。


……何時の間に置いたんだ…?











「多分、そうです。」

「なんだその多分ってのは…」



苦笑した佐藤先輩を目にしながらもそのドリンクをのどに流し込んだ。

案外上手い、なんて思いながら。



























日吉は好きだ。長くなったので分けてみた。朝は長いよ!
気になる方はぽちりとどうぞ!



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