ある朝の憂鬱。(拳楼) ※女体化、やんわり裏を連想させる表現が出て来ますので苦手な方はご遠慮下さい。 『』 ある男の朝は、それはもう悲惨な事件で幕を開けた。 そこは夜明け、まだ静かな三番隊舎。 隊舎の主、ローズこと三番隊隊長の鳳橋楼十郎は、隊首室の椅子に仰向けになって寝ていた。 「………っ…」 ふと開けた視界には、ぼんやりと薄暗い部屋が映っている。 開いた窓から見える空はまだ暗い、朝方であるのが確認できた。 一度起き上がろうとするが、同時に頭が重いのを感じた。頭が痛い。 二日酔いの時の感覚に似ている。 …確かに昨夜は、一階の広間にみんなで集まって宴会をしていた。 主催者は五番隊隊長、平子真子。羅武、リサ、拳西や白と言ったお馴染みの者もおり、久し振りにワイワイはしゃいで居たのははっきり覚えている。 しかし隣に誰が座っていた、どんな事を話した、などと言った細かいことを覚えていなかった。 酔った所為かと思ったが、今まで意識も記憶も失うまで飲んだことは無かったから、昨日に限ってそんな事は無いだろう。 ――…風邪かな? きっとただの体調不良に違いない。今日は幸い非番だし、もう少しゆっくり寝よう。 …そう思って狭い椅子の上で寝返りを打とうとした。 しかし。 「ん…?」 何か今、感じた事のない異様な感覚に襲われた気がした。 何かあるというか、ついて居るというか。強いて例を挙げるならそれは柔らかく、枕か、水風船でも抱えて寝ているような。 「あれ…」 おまけに、心無しか服が大きい。袖も裾も少し長く、帯も緩んで服はほぼはだけている。 随分危険性の高い状態だ。 ――……何か…嫌な予感… 徐々に視界がはっきりしてきた。 その刹那。見てはいけない、それでいてあってはならない光景が視界に在った。 理解するのには、想像以上の静寂と冷静さが必要だった。 しかし。ただでさえ寝ぼけて居るこの状況で、ローズの思考が上手く働く訳はない。完全に彼の頭は停止していた。 「…………………」 それからまた暫く沈黙が続く。 しかし、本人の思考の覚醒により、隊舎に長く続いていた沈黙は勢い良く破られた。 「――…う、うわぁぁぁっ!!」 嫌な予感は的中していた。 隊首室から誰かの悲鳴が聞こえただけでも、隊舎にいた人間はみんな慌てるに違いなかった。 宴会の後広間に雑魚寝していた平子達も、当然悲鳴を聞き飛び起きる。 「何だ!!?」 「喧しいなぁ、朝っぱらから何やねん…」 「二階…ローズの部屋からだよな」 「けど女の声やったよ、ちょっとマズいんやぁないの」 「やっぱり?」 ――……問題は、そこだった。 ローズ本人の声だったなら、ただ驚くだけで済んだかも知れない。しかし、彼の部屋から聞こえたのが『女の悲鳴』となると訳が違う。 酔った勢いで彼が何かしたのか。 隊長としての沽券に関わる重大な事態だった。 尤も先に待ち受ける事情を知らない彼らにとっては…だが。 「ローズ!」 「大丈夫か!」 「おいどうした!」 「…って何しとんねん」 慌てふためく席官達を押し退け部屋に向かった、拳西、羅武、リサ、平子の4人。 彼らの視界に飛び込んで来たのは… 「うっ…うぅ…」 何故か床に伏せ、啜り泣くローズの姿。 本人はそれどころじゃないのに、不自然に開け放たれた窓とこれまでの状況(目の前で泣く男を含め)からして。 4人の予想は一致した(事実無根だが)。 「女にフられたのか」 「だっさ」 足下にうずくまる男はこれでもかと言わんばかりに必死に首を横に振る。 「情けないよ、顔上げやローズ」 リサが頭をつついても、首を横に振り喋ろうともしない。 「返事せんかいボケ」 「……ぅう…」 「いや待て、何か変だろ…」 そこで、やっと服の大きさに違和感を覚えた羅武。思い切ってローズを摘みあげた。 「待って、ちょっとラヴ!!」 やっと口を開いた彼の声は、紛れもなく女の声だった。 「ロ、ローズ…」 「あんた…」 「マジかよ…」 隊舎中に4人の笑い声が響き渡ったのは言うまでもない。 10分後。笑われていじけるローズの許には、今は拳西だけが残っていた。 「あんなに笑わなくたって良いじゃない…いつも笑わないキミまで笑ってさ」 「仕方ねぇだろ…まさか女になってるなんて思わないし」 「そうだけどね……ところで、リサ達は?着替えて戻ってから見てないけど」 「みんなに言い触らしに言った」 何で止めないんだ、この男は。 「今、一瞬キミへの信頼が薄れた」 「止めようとした時既に誰も居なかったんだよ。…にしても…小せぇし。」 「いつもボクより背低いもんね、拳西。」 からかうような笑みを浮かべていた表情は、ローズの冗談で一瞬歪む。そうだ、この男には冗談が通じないのだった。 「言うじゃねぇか、あぁ?」 「ゴメンゴメン」 「まぁ、デカいよりは小さい方が…」 青筋立ててキレていたのが今度はすぐ和らいだ。今日は機嫌が良いのだろうか。 そう考えを巡らしたも束の間。視界がグラッと揺れ、何かに覆われた。 いつもと何か違うがこれは慣れた感覚。抱き締められたとすぐ気付いた。 「おわっ!…ちょっと、レディーには優しくしなきゃダメだよ…。今本気で首折れるかと思った」 「男より抱きやすいから良い。…結構スタイル良いのな」 「男でも黙って抱いてる癖に…て言うかどさくさに紛れて何してんのキミ」 「たまには良いだろ」 今は自分のよりもずっと大きな掌が、ちゃっかり胸に置かれて居る。 …これを見逃す訳には行かない。 「良くない、ダメ、誰か来たらどうすんのさ」 「…お前ちゃっかり鍵かけてたろ」 「何、誰も来ないからって何かする事でもあんの?」 「何かして欲しいのかよ?」 「…違う」 「嘘」 「嘘じゃない」 「正直に言え」 「本当だってば!」 抵抗虚しく。 とうとう押し倒され上手く抜け出せない状況に追い込まれた。 ――……マズい。 ……今日はやっぱり、機嫌が悪いのかも知れない。 「元に戻る前に一遍体験しとくか?」 「…勘弁!何でそう意地悪ばかり言うのさ…まだ酔ってんの?」 「いや。…反応可愛いから」 「なっ…」 「あとお前拒絶しないだろ」 「…からかわないでくれる?」 「ホントの事だろ?」 「………………」 「はい決まり」 それ以上は、一切反論できなかった。 まぁ、今日くらいは たまに流れに身を委ねても良いだろう。 言い訳、今の内に決めておかなきゃならないな。 FIN。 □□□ 復活後第1号がこれってどうですか。 えー、アンケートにてまさかのローズ女体化話をみたいとのご意見を幾つかいただいたので… …勇気を出して書きましたが『女じゃなくても出来そう』な話になりました。ごめんなさい。 経緯まで書いたらメッチャ長いし、裏オチって最悪(笑) 続編書きたい。今度は平子達と、あと犯人を交えつつ(笑)真実編みたいな(笑) 感想いただけましたら幸いです(´∀`) 有り難う御座いました。 ← [戻る] |