女神
「『汚しちゃいけない存在』…?案外ロマンチストだね、蓮って」
個人練習で入ってたスタジオでばったり会った友人である宮城 敬夜に、彼女との事を話した所、そんな揶揄する様な返事が返って来る。
「で、彼女とはやれそうなの?」
スタジオを後にし、近くにある居酒屋で飲む事になり、話し込む内に4杯目のビールがなくなる頃、敬夜からそんな内容を尋ねられた。
…なんか良く解らないけど、どうしてだか、敬夜が『やる』とか『やれそう』とか言ってると、卑猥に聞こえてしまう。
まあ、理由は何と無く解らないでもないけど…。
「…あ、ちょっとゴメン」
不意に敬夜の携帯が着信を報せ、会話を中断して対応するのを眺める。
「……あのさ、一度、二度寝た位で、彼女面しないでくれる?それからさ、もう面倒だから架けてこないで?」
と、矢継ぎ早に冷たく放つ敬夜は、通話をあっという間に終らせてしまった。
そんな光景を見て、僕の口からは嘆息が漏れてしまう。
「…何?」
「敬夜といい、京也といい、幾らホストなんて仕事してても、女性の扱い位、考えた方が良いと思うけど?」
半ば嗜める様にして話す僕に、敬夜は冷笑を浮かべる。
男の僕から見ても、端正な顔をしている敬夜とは、約1年前位に知り合って以来、意気投合して、こうして時々ではあるが飲んだりしていた。
「くすっ、僕の心一つ動かせない女なんて、只の排泄処理と一緒だよ?
それは、京也も一緒じゃないの?」
「…はぁ…、こんな事なら、京也をお前に紹介するんじゃなかった…」
「どうして?京也のベースって、僕のギターに合うと思うけど?」
「そうじゃなくて……」
駄目だ。これ以上諭しても、埒が開かない。
こういったのは、言葉じゃなく本能でなきゃ解らないと思うから…。
「蓮?」
と、悩む僕の前で、敬夜は首を倒し問う。
「ま、敬夜も京也も、本気で好きな人が出来たら解るかもね…」
僕は敬夜にそう言うだけしか出来なかった。
よく、『恋に堕ちる』とか言うけど、恋愛って考えるモノじゃなくて、突然沸き上がるモノだと思うんだよね…。
だから、幾ら言葉で説明しても無駄って事で。
そう…。
彼女は僕に取って、降臨してきた女神みたいな存在だったんだ。
だから、汚しちゃいけないと思ったりする訳だけど…。
それが恋に芽吹くまで、時間は掛からなかったんだけどね…?
続く。
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