対象
「ははっ、蓮フラれたんだ、その子にっ」

「五月蝿いよ、京也」



事の顛末を、友人で後輩でもある京也に話すと、お腹を抱え、笑いながら、そんな返事を返してきた。

「…にしてもさ、女ヴォーカルなんて、ビジュアル系でやってけんの?」

まだも笑い、京也はそんな質問をしてくる。



確かに、女性でビジュアル系バンドをやる人口が増えたとはいえ、まだまだ、男社会。

ましてや、前バンドではそこそこの動員を入れてた僕がやろうとしていたのは、女性ヴォーカルのユニット。

男女ユニットなんて、数もある訳じゃないし、厳しいといえば厳しい。

でも、成功する様な気がするんだよね。

彼女とだったら上手く行く。

何と無く予感…というよりも、僕の中では決定事項に近かった。



「でもさ、その緋鷺ってガキ、中等部では有名らしいぜ。
俺は興味ないから知らんけどさ」

京也は、ホントに興味がなかったんだろう。

学食のコーヒーを啜りながら、ぶっきらぼうに話す。


まあ…、彼女と京也の間に共通点どころか、全くの正反対だったし。


女好きの京也。

男嫌いの彼女。


…ほら、ね。



「ん、でも、彼女が良いんだよね。多分、彼女以外のヴォーカリストは居ないと思う」

「……惚れた?そのガキに」

「え?」

唐突に切り出した京也の話に、僕は驚き小さな声を上げる。



『惚れた』…のかなぁ?

でも、彼女とセックスしたいとかないけど。

なんだろ…、彼女は汚しちゃいけない様な気がする。

あの高潔さを、誰かが手垢を付けては駄目だと思うんだよね…。


続く。

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