運命
彼女の固く閉じていた唇が小さく開き、呟く様に話し出すのを認める。
「…あ、あの…先程は、ごめんなさい…」
身体を二つに折り曲げ、謝罪する彼女に、警戒されぬ様に微笑んで見せて、
「別に良いよ?」
と返した僕。
「「……………………………」」
お互いがきっと強張ってた顔してたと思う。
片や、男性恐怖症の彼女。
片や、そんな彼女を知らなかったとはいえ、驚かせてしまった僕。
だけど、元々は人が好きだったんじゃないかな?彼女。
ふ、と綻(ホコロ)んだ淡い笑みを僕に見せてくれたんだ。
「…っ」
それが、儚い華がゆっくり開く様な微笑みで、僕は馬鹿みたいに口を開いて凝視してしまった。
あぁ…、彼女となら、僕の言葉に出来ない世界を表現してくれるに違いない。
何故?って言われても解らない。
なんていうか、直感?
多分、敬夜辺りは馬鹿にしそうだけどさ、
『運命』
を彼女に感じたんだよね。
だから思わず。
「君、ヴォーカルやらない?僕のバンドで」
と、口を突いて出てしまったんだ。
すると、春の微笑みを浮かべていた彼女の顔は一変、凍り付き、
「遠慮します。興味ありませんから」
冷たい言葉を僕にぶつけ、
「先生、私、教室に戻ります。お世話になりました」
踵を返したかと思うと、ペコリ、と低頭し、元彼女に告げると、退出してしまった。
「………」
「飴屋君〜、彼女を怒らせて馬鹿ね…」
元彼女は、額を指で支え、呆れた様な声を出す。
「…でも、まあ、彼女が感情を変えたなんて、珍しいわね。これもある意味、良かったのかしら」
そして、続け 様に話す元彼女に、ボカンとした顔で見上げるのだった。
続く。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!