愛玩乙女
第9話 幸福の瞬間 *
クリスマスライヴ後、打ち上げに参加する事なく、帰って来た二人。
「蜜?そんなトコで寝ないで、ベッドに行きなよ?」
「ん〜、ちょっと…だけ…」
ソファに横たわり、まどろむ蜜の躯を揺すりながら、そう促すが、半分夢の国に旅立ったのか、敬夜の話は頭の中に入ってないようだ。
「ふぅ…、5分だけだからね?」
溜息をつき、敬夜は着ていたコートを脱ぐと、蜜に掛けながらそこで寝る事を赦す。
「ん…」
殆ど寝言の様な返事を返し、堕ちる様に蜜は眠ってしまった。
敬夜はてきぱきと持ち帰った荷物の整頓をしだし、きっかり5分後リビングに戻って来ると、完全に熟睡しきった蜜が、手足を弛緩させ、寝息をたてていた。
「蜜、ほら、5分経ったよ?」
「……」
「風邪ひくから、寝室に行こ?」
「…ぅ…」
微かに顔を歪め、反応する蜜に、駄目押しで声を掛ける。
「蜜…、起きてベッドに行かないと、此処で犯るよ?」
ボソッと耳元で囁くと、さっきまでの熟睡が嘘の様に、ぱっちりと眼を開き、跳び起きた。
「あ、起きちゃった」
残念そうに話す敬夜を余所に、蜜は立ち上がり、脱兎の如く部屋の隅に逃げてしまう。
ふと、敬夜の瞳が獲物を狙う肉食獣の様に変化した。
「何で逃げるのかな?」
にじり寄り、嫣然と笑い事ながら言う敬夜に心底怯える蜜。
逃げようにも、自らが部屋の隅に来てしまい、専ら逃げ場がない。
トンッ。
蜜を挟む様に、敬夜の両腕は壁に置かれ、彼女を捕らえる。
強張った面持ちで、蜜は敬夜を見た。
―敬夜の眼が、意地悪になってるっ。
そう悟った蜜は、その腕の中で逃走を謀ろうと疱くが、所詮、子供の蜜が、大人の敬夜に敵う筈がなく、あっさりと捕まってしまう。
「捕まえた」
逃げない様に拘束して、耳元で嬉しそうに囁く。
「何もしないから、一緒にお風呂に入ろ?」
「ほ、ホントに、何もしない?」
「うん」
綺麗に微笑む敬夜を見てしまった蜜は、ほだされた様に、コクン、と頷き了承した。
「おいで、蜜」
広い脱衣所で、敬夜は、戸口に立ち竦む蜜を呼び込む。
渋々といった感で、中に脚を踏み入れた途端、カチリと金属音がして慌てて振り返った。
いつの間にか背後に居た敬夜が後ろ手に鍵を掛け、にっこりと笑っていたのだ。
「何も…しないって、約束したよね?敬夜…」
蜜は恐々と尋ねると、敬夜は笑顔を崩さないまま、
「確かに僕からは、何もしないって約束はしたけど、蜜からのは約束してないよ?」
判決を言う裁判官の様に、きっぱりと返され「そんなぁ」と、嘆き力なく座り込む。
「さ、何して貰おうかな?」
敬夜は至極嬉しそうに言いながら、蜜の着ていたワンピースのファスナーに手を掛けると一気に下へと下ろす。
「…きゃっ!」
ぱっくりと開いた背中に、指を這わせると、ぴくん、と躯を反らせた。
「何もしてないのに、反応したら駄目だよ?」
唇の両端を引き上げながら笑う敬夜を、潤んだ瞳で見る蜜。
瞳で懸命に抗議するが、そんな蜜を敢えて無視する様に、
「じゃあ先ず、最初にキスして?蜜」
笑顔を絶やす事なくそう告げると、蜜の手を取り自分の頬に当てた。
「…しなきゃ…ダ…
「駄目」
蜜の言葉を遮り意思を通そうとする敬夜に、蜜は恐る恐る近付き、敬夜の薄い唇に自分の唇を技巧ちなく重ねる。
緊張しているのか、微かに震え、敬夜は閉じていた眼を僅かに開くと、
「蜜、僕がいつもやってる様にやらないと、駄目だよ?」
「!!」
紅潮させた顔を跳び退かせて離れ様とする蜜の頭を、掌で押さえつけ、無理矢理唇を割り、彼女の口腔に舌を差し込み犯す。
「…ふっ…ぅ…」
僅かな隙間から落ちる蜜の吐息。
それだけで、敬夜は異様な興奮を憶えた。
蜜の背中に回した手で、器用にブラのホックを外すと、背中が開いたワンピースと共に脱がす。途端に露になった白い肌。
必死に阻止しようとした様だが、完全に抑え付けられた躯は、ビクともせず、徒労に終わる。
唇を離すと、最後まで繋ぎとめていた糸が音もなく切れ、蜜は浅い呼吸をしながら、敬夜に凭れてきた。
「蜜、大丈夫?」
「た、敬夜の…嘘…つき」
「『嘘付き』?僕が?」
「だって…自分から…何もしないって…言った…のに」
息を継ぎながら、たどたどしく抗議する蜜に、
「だって、蜜がするのを待ってたら、朝を通り越して、次の夜になっちゃうよ?」
飄々と返す敬夜。
癪の種になったのか、蜜は憮然となり、そっぽを向いてしまった。
―あ、拗ねちゃった。
椋れ、後ろを見せる蜜の背中に、敬夜は舌を這わせ、下から上へと掬う様に滑らせる。
「…ひゃ…ッッ」
吃驚した蜜の声に、敬夜の顔は苦笑してみせた。
「…擽ったい?」
「……」
コクンと頷き返す蜜の背中から腕を廻し、形良く小振りな胸を揉みしだく。
「ッふぁッッ」
それから、先にある赤い小さな実を摘むと、膝から崩れ落ちていった。
「これじゃ、何時もと一緒だね?」
耳元で囁く敬夜の声すらも、遥か遠くから聞こえ、蜜の意識は朦朧となる。
…ち…ゅ…。
「……ッッ」
首筋に置かれた唇が、蜜の白い肌に赫い花弁を散らすと、ピクッと微かに反応を返す。
「さて、こっちはどうかな?」
心底楽しそうに、揉んでいた胸から手を離し、下着の上から彼女の蜜部に触れる。
上からでもはっきりと解る程、指に絡み付き、溢れ続ける雫。
「…もう、ぐしょぐしょだね」
「ぃ…ゃぁ…ッ…」
弱々しく頭を振り抗う蜜のショーツに指をかけ脱がしていく。
冷たく硬い床に敬夜は着ていたシャツを脱ぐと、そこに敷いた。
それから蜜を横たえさせ、上から唇を落とす。
「蜜、ごめん。今日ちょっと余裕ないかも…」
そう苦笑しながら、蜜の華奢な脚を肩に掛けると、自身を挿入した。
「…はぁ…ぁんッッ」
途端に甘ったるい蜜の喘ぐ声が零れる。
―ダメだ。可愛過ぎ。
敬夜は、焦らしながら奥深く挿れていく。
刹那、散らした様に真っ白な蜜の肌が薄紅に染まる。
薔薇色の唇からは、意味を成さない言葉が漏れ、短かな息を吐き、時折、敬夜の名を拙く呼ぶ。
灰色の瞳から、生理的な涙が溢れ零れ、繋がった蜜部からは、敬夜が律動する度に、くちゅくちゅと淫らな水音をさせていた。
「…ひゃ…かや…ぁん」
耳元を擽る淫らに喘ぐ蜜の声に、高ぶり憶える。
頭の芯がじんわりと甘く痺れ、次第に考える事すらどうでも良くなっていった。
感じているのか、敬夜の自身を受け入れた蜜の胎内が、柔らかくだが、強く締め付けてくる。
「…み…つ…締め過ぎ」
敬夜は苦しげに言うも、
「…らって…ぁあんッッ」
敬夜の首に廻した腕をきゅっ、と抱きながら、言い訳めいた事を言おうとしたその時、敬夜が奥まで突くと、喉を反らせ喘ぐ。
「…ダメ…もう…達く…ッ」
敬夜はそう言って、動きを加速させると、蜜の胎内に欲望を吐き出し絶頂を迎えた。
繋がったまま、苦しげに息を継ぎながら蜜と抱き合う。
心地良い温もりが、じんわりと波紋の様に広がる。
こんな時が、幸福だと感じる唯一の瞬間であった。
「…敬夜ぁ…おもーいっ」
「あぁ、ごめん。蜜」
抗議する蜜の声に、咄嗟に躯を起こすと、ぷくっ、と頬を膨らませ、椋れる蜜の姿に、笑みが零れ落ちる。
「…なぁに?」
「嫌、蜜が可愛いな、って」
「?」
理解らない顔で、蜜が見詰める。
それがまた可笑しくて、敬夜は声をたてて笑ってしまった。
「はい」
ダイニングテーブルに置かれた一つの皿に、怪訝な表情を見せる敬夜。
皿の上にあるもの、それは、真っ白な生クリームでデコレーションされたブッシュドノエルだった。
「…蜜が作ったの?」
「うん!綾香さんと一緒にね」
「……」
「どうかしたの?」
いきなり黙ってしまった敬夜を心配そうに、蜜は覗き込む。
その顔は幾分蒼褪めている。
「…あの…さ、蜜。これ作ってる時、京也、何か言ってなかった?」
「ううん。ただ…」
「『ただ』何?」
「ずっと笑ってた」
蜜がそう話すと、がっくりと敬夜は肩を落とした。
―あいつ…嫌がらせのつもり…か?
「敬夜、大丈夫?」
おろおろとしながら、蜜が言うのを「大丈夫だよ」と返し、覚悟を決めた様に、椅子に座る。
蜜には内緒にしているが、敬夜は生クリームが大の苦手なのだ。
素直にそう言えば良いものの、楽しそうに切り分ける蜜に何も言い出せず、敬夜は小さな溜息を零すのだった。
続く。
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