愛玩乙女
第2話 冷たい雨、温かい雨 *


「さ、どうぞ?」


高層マンションの一室のドアを開けると、敬夜さんは私を中へと誘いました。


……はわぁ…すごいです……。


ビカピカで、私の姿までも映しそうな程磨かれた床に、脚を踏み入れます。

カツンと響く音に、思わず肩が跳ねてしまったのを敬夜さんに見られてしまい、くす、と笑われてしまいました。


はわわっ、恥ずかしいですっ。


「ちょっと待ってて」


敬夜さんは、突然私を玄関に残し、廊下の途中にあるドアを開き、中に入って行きます。

パタンと小さな音をたてて中に消えてしまったのを認めた途端、私の内に葛藤が生まれだしました。


逃げてしまいましょうか。

だって、私みたいな汚い存在が、綺麗なこの場所に居るのは可笑しいです。

それに、敬夜さんに甘えちゃいけないと思うのです。

うん。このまま、このドアを開けて出て行こう。

ほら、早くっ、でなきゃ敬夜さんが戻ってきてしまいますっ。


私は、ドアノブのバーに手を掛けて、静かに押します。

脚を廊下に向けて踏み出そうとしますが、固まったように動きません。


どうしてですか!?きっと、絶対に敬夜さんに御迷惑をおかけする事になるの解ってるからこそ、早く出て行かなきゃいけないのに!!

私は硬く目を閉じ、唇を決意に強く噛み締め、振り切り出ていこうとしましたが、敬夜さんの温もりを捨て切れない私の脚は、ほんの30cmの廊下へすら、動く事は出来ませんでした。


早く、早く、敬夜さんが戻って来る前に…!


…ふ…わ……。


「蜜、何処に行くの?」

「、っ」


私の躰を、敬夜さんは掬う様に抱き上げると、私に問い掛けます。

私はといえば、開放を試みては、じたばたと暴れますが、所詮子供の私が敵う筈もありません。

ですが、やはり、どうしても御迷惑をおかけする訳にはいかず、


「やっぱり行きますっ」

「何処へ?」


密着するように抱きかかえる敬夜さんに言いましたが、冷たい凍ってしまいそうな声が、私の後頭部を打ちつけました。


「……」


その冷ややかで硬質な声音に私は身を竦ませると、敬夜さんは有無を言わさず、先程までいたらしい一室へ、私を連れて行きます。


そこは広く取られた脱衣所で、私を降ろすと、敬夜さんは私が逃げ出さないように、ドアの前に立ちはだかりました。

それでも、私は敬夜さんの雨に濡れたシャツを掴み、懇願します。


「敬夜さん、お願いします!
 貴方に迷惑掛けたくないの!」

「迷惑?どうして?」

「……それは…、私、こんなに汚いし…」


私は本当の事が言えずに、口の中で作られた言い訳を零すと、敬夜さんは腰を落とし、私に目線を合わせました。

夜の闇の様に、深い黒を湛えた瞳に吸い込まれてしまいそうです。


「…僕の言う事が信じられない?」

そんな風に、優しげに語りかける敬夜さんの言葉に、激しく首を横に振ります。


「もしかして、僕が嫌い?」


もう一度、首を横に振ります。


「じゃあ、僕が今から言う話を聞いてくれる?」


私は、敬夜さんの声に、微かに首を縦に動かしました。

それを認めた敬夜さんは、私を包む様に抱きしめると、そっと耳元で囁きます。


「何度だって、言ってあげる。
 『君は、綺麗だよ』蜜…」

「…ホント?」

「僕は、嘘は君にだけには言わない。
 約束するよ」


今まで言われた事のない温かな言葉が、私の胸を満たし、それを合図として、自然に涙が溢れ零れ落ちてしまいました。


「…敬夜さん…」

「敬夜で良いよ」

「…た、敬夜…、本当に居ても良い…の…?」

「勿論。
 蜜が僕を嫌ってないなら、何時までも」


耳元で囁かれた優しい言葉に、私は彼の首にしがみつき、泣きじゃくりました。


どうして、敬夜さんは、私が与えられる事のなかった言葉や、思いを、自然に与えてくれるのでしょうか。

本当に…一緒に居ても、いいですか……?



漸く落ち着きを取り戻した私に敬夜さん……いえ、敬夜は告げました。


「蜜、風邪をひいちゃうから、風呂に入ろう」


彼の言葉に、ぴくん、と肩を跳ね上がらせます。


「ひ、独りで入っちゃ…ダメ?」

「駄目」


私の微かな抵抗は、敬夜の、唇の端を僅かに引き上げ、綺麗な笑み意地悪な笑みで掻き消され、私の着ていたボロボロの服を、脱がせられました。

肢体に浮かぶ数多の青い痣を、敬夜の長い指が、労るようにして触れます。


「……こんなに白くて綺麗なのに……」


何故か、怒ってるようにも、泣いてるようにも取れる複雑な表情をして、その痣の一つに形の良い薄い唇を充てると、ちゅっ、と音をたてて吸ったのでした。


「……っ」


まるで、そこから甘い毒が染み出したかのように全身が痺れ、自立できなくなった私は、敬夜の肩に顔を埋め凭れます。

敬夜は、完全に身を任せた私の躰を軽々と抱き上げると、浴室に無言で進み、私を抱いたまま、シャワーのコックを捻りました。

私達の頭上には、さっきまでの冷たい雨とは違い、熱いお湯が降り注ぎます。

次第に濡れそぼり、雫を伝う唇を、敬夜の綺麗な唇が息までも食べちゃいそうな勢いで塞いできました。


「…んんっ…」


いきなり、敬夜の舌が私の舌を追い、絡ませてきます。

ねっとりとした彼の舌に溺れ、無意識の内に、敬夜の首に腕を絡ませ、彼の唇を求めていました。

不意に唇が離れます。

二人を最後まで繋いでいた透明の糸がぷつりと切れると、私の頭は真っ白になって、人形のように成すがままとなりました。

敬夜の腕が私を支え、薄い笑顔をこちらに向けたかと思うと、


「気持ち…いい?蜜」


意地悪に囁かれた言葉に、私は真っ赤にした顔を僅かに頷かせます。

舒に、敬夜は私を浴槽の淵に座らせると、細い指が私の躰の線を辿り、下半身に到着すると、力を入れてる訳ではないのに、閉じた膝を割って、その奥にある場所へ潜ってしまいました。


「ぃ…た…」


まだ癒えない傷が触れたのか、痛みを告げます。

すると、呟きに気付いた敬夜は、すぐに指を抜き、


「まだ、破瓜したばかりだから、痛いと思うけど我慢して?」

「や…っ、やだッ…汚いよぅっ」


私は痛みから訴えながら、敬夜が開いた膝を閉じようとしますが、大人の男性の力に逆らえる筈はなく、強い抵抗もできないまま、なす術もありませんでした。


「隠さなくても良いよ。
 ほら、こんなに綺麗…」


敬夜はそう言って、開かれた花片に唇を付け、溢れた蜜液を舐めだしました。


「…ひゃ…ぅ…ッ」


私の躰は、敬夜からの愛撫に素直に反応し、浴槽の縁から滑りそうになる腰を、敬夜の大きな掌が支え押さえながらも、それでも花の蜜を吸う事を止めてはくれません。


「…ぃ…やぁ…っ」


必死の訴えも、聞き届けてはくれず、敬夜の舌は、今だ溢れ続ける蜜壷へ潜らせます。

その瞬間、


「…ぅ…あぁ…んっ」


激しくのけ反ったかと思うと、突然襲った絶頂に、頭が真っ白になりました。


「…まだ、終わってないよ?」


敬夜は朦朧とした私に囁くと、雨と、お湯に濡れた服を脱ぎ、痩躯な肢体となり、私の片膝を抱えたかと思うと、硬くなった自身を、胎内へ、ゆっくりと穿ちました。

甘く響く掠れたをあげ、敬夜の耳元を擽り、それがまた敬夜の欲望を高めたらしく、肌を叩く様に腰を激しく打ち付けます。

敬夜の躯が律動する度に、繋がれた部分が艶かしい音を立て、私の耳に響き、それが余計に羞恥心に駆られました。

壊れた人形の様に、敬夜の動きに併せて揺れ動く私の頭の中は、快感に痺れ、無意識に零れ出す喘ぐ声も、恥ずかしいと思う余裕すらない位、敬夜との行為に堕ちていきました。


ズ…ル…。


絶頂を迎える寸前で敬夜の楔が引き抜かれ、意味が分からなかった私は、夢心地から現実に引き戻された顔をして、


「…敬…夜?」


と、問い掛けます。

きょとんとする私に、敬夜は苦笑いしながら、


「…さっきは、出来なかったけど、ちゃんと避妊しないと、蜜の躯に傷が付くからね?」


私に答えてくれました。


よく、意味は解りませんでしたが……。






「これからは、僕が蜜を守ってあげるからね」


湯舟に押し込まれ、掬ったお湯を私の肩に掛けながら、浴槽の縁に座る敬夜が言いました。

その一言に胸が一杯になった私は、


「……ありがとう…ございま、す」


と、呟いた後、恥ずかしくて、湯舟に顔の半分を沈めます。

敬夜は一瞬驚いた顔をされてましたが、お返しとばかり、柔らかな笑顔を私に見せ、


「蜜が茹で蛸になる前に上がった方がいいね」


そう言って抱き抱えると、風呂場から出て、私の躰に、彼の真っ白に糊付けされたシャツを着せてくれました。

どこもかしこも、小さな私には大き過ぎてぶかぶかです。

余りにあまった袖をぷらぷらさせていると、いきなり敬夜が吹き出してしまいました。


「…敬夜。私、どこか変ですか?」

「いいや、可愛いよ、蜜」


こう敬夜が言った瞬間、私の頬はもとより、顔全体が火をつけたみたいに赤く染まります。

それがまた、彼のどこかのスイッチを入れてしまったようで、しきりに笑っています。


???、私、何か変な事したでしょうか。


楽しげに笑う敬夜に釣られ、私の口元も綻び笑ってしまいます。


風呂場に残る暖かさは、私と敬夜の楽しい気持ちを包み込み、温めたのでした。


続く。

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