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批評想草
第四作目A
 文章力、人物、発想、展開、世界設定、すべてにおいて平均的な作品で、すんなりと世界に入り込め、すらすらと読むことが出来ました。今まで書評をやった小説の中では一番マトモだとも思います。

 ですが、それだけでした。水の味を忘れてしまうように、読んだことを忘れてしまうそうになる。突出したところが一切ないために、今迄で一番マトモだけど一番印象に残らない…ちょっと不思議な事態です。

 水道水の味を聞かれて答えるのに窮するように、どう書評方法に迷うほど、気持ち悪さも気持ちよさもない、…キュソキュソしないのです。
 平均的な文章は、まるで二時間映画を三十分に編集した映画のようです。
 管理人はモンスターズインク(アニメ)やミスチルカップ麺CMにさえ泣いてしまうくらいに簡単にキュソキュソするタイプなんですが、キュソキュソしませんでした。

 唯一の驚きは、とつぜん時代が変わったことぐらいでした。その驚きも、突如として変わった時代背景に違和感を覚え「いきなりタイムマシーン乗っちゃったよ!」というツッコミと共に生まれたものです。

 しかも鞘だけの理由も感動すべき部分なのかもしれないのに乾燥しきったパンを食べているような感触で、自分にとっては落とす予定にはなかったはずの単位を落としてしまったこと(読書した日に通知がきまして)の方が衝撃的展開なのでした。

 これはけっこう重大な問題かな、と思います。だって小説にとって大切なことは「印象に残ること」ですから。

 印象に残らないということは、飽きられるということと直結しています。日常に埋没し、すぐに忘れてしまう。
 表紙が気に入ったから図書館から借りて読んでみたら読んだことがあったやつだった…そんなタイプの寂しい作品になってしまう可能性があります。死活問題です。

 でも、いくら平均的だからって印象に残らないなんてまずないのです。本来ならば、ありえない。
 なんでかなと何度か読み直して思い立ったいくつかの原因は、ちょっと面白いものでした。

■話の流れに「起承転結」の「転」がない

■文章に慣れすぎているために試行錯誤していない

■作家としての開拓精神がない

 言おうとすればまだありますが、やめます。なぜなら、この三つは全く同じ問題を指し示しているからです。
 もしかしたら、そう思って読み直したら、本気でそうじゃないかと思った答え…。

■作品としては赤ちゃんであり、平均は平均でも低いレベルの平均に位置している。

 あまりにもバランスよく丁寧な言葉で書かれているので気づきにくいのですが、この作品はまだ成長段階にも入っていないんです。
 人物の心情や行動の理由は不透明で、文章はあらすじのようで、構成のための努力は不十分、世界観はどこぞからの借り物、物語は頭にあるのを並べただけで話と話の接着もうまくいっていない。
 個性がないのではなくて個性がまだ確立されていないのです。例えるならば、箱入り娘。例えるならば雨と風に打たれる前の巌です。

 もしかしたら作者は、作品作りをする人間がぶち当たる読者との壁や自分との闘いを幸か不幸か体験していないのかもしれません。

 お世辞ばかりで疲れきる・常連に裏切られる・掲示板に書き込みがない・ランキングが上がらない・投稿したらかすりもしないのに友達は一時通過(・・・)等の時化から始まり、
人物が作者の意図を離れ暴走する・エピソード詰め込めすぎて破綻する・作風を変えすぎて喪失するといった、阿鼻叫喚のラグナロク、そして最後に涅槃で昇天。

 …そしてまた時化る。そんな創作葛藤を。

 打開策として、なにかをあげるなら、基本を学んだり、色んなジャンルに挑戦したり、自分の内面を削るように小説にしたり、作風を壊すための冒険をしたりすることをおすすめします。
 つまり、創作における冒険をすること。通常では書かない人物や世界、表現方法に挑戦して、ちょっとくらい自分に無理して、不良になってみることです。

 また、頭に出来上がったストーリーというパズルを何度も壊しては作り壊しては作りを繰り返してみてください。ポンポンポンとエピソードを置くだけならば、ただの小学生の感想文です。これは小説、そして作者は菻千夜さん。好きなだけ撫で回し挽き千切り捏ね繰り回して、すこし面白い形に組み替えてみてください。


 例えばこの作品なら、鞘からの視点で展開したり、時をぐちゃぐちゃに交差させたり、刺激的な設定で軽く壊したりするだけで盛り上がれる部分が生まれます。

 それと最後に、「自分を描くこと」をやってみて下さい。自分の内面の汚い部分、本当の欲求、他人に隠しているものであればある方が良い。心臓が痛くなって、もういやだいやだと思うくらいに自分という作品に対面してみてください。小説を書くということの、なにかが変わると思います。

 ぐだぐだ書きましたが、以上にて批評とさせて頂きます。


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あきゅろす。
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