The last crime 0 『ZERO』 黒煙を吐いて燃え上がる炎。 何もかもを飲み込み、灰に変えてゆく。 そう、全てを無に帰す。 生あるものも、無い物も、同様に。 黒く、黒く燃やし尽くして。 静かに、夜の闇に消えるのだ。 燃える赤を見ていた気がする。 煙に巻かれ思考能力を奪われた脳では、それと断定する事は出来ないが。 しかし周りには煙と焔しか無かった筈だ。 見ていたかはともかく、目には入っていただろう。 地獄絵図さながらの、黒と赤の世界で。 きっと、何も――感じていなかった。 それは、今も同じで。 今? この五感は、まだ続いているのか。 この世界は、まだ。 水音が遠くから聞こえる。 絶え間無く続くそれは、現実感を徐々に引き戻す。 落ちる場所によって、それぞれの音を発する雫。 これは、雨音だ。 それに気付くと共に、寒さと、耳元で鳴り続いていた雨粒を感じた。 何故、雨を浴びている? 焔の中に居たのではなかったのか―― 疑問は、掌中の重みに吸い込まれた。 右手に乗っていたのは、拳銃だった。 『俺が先に行くだけの事だから』 そう言い残して彼は炎の中に消えた。 あれから何年経っただろう。 年月を数える気もいつしか失せて、それでも時間だけは確実に経過してゆく。 ただ、生きた。 死なないように、生きてきた。 その向こうに何があるのかも知らず。 否、判っている。 生きた向こうにあるのは、必ず、死だ。 彼に教えられた事。 死にたくないと願いながら、命ある者は皆必ず、死に向かうのだ。 この矛盾。 目を向けたくなど無いが、僕の始まりは其処だから仕方がない。 彼の死から、僕の生は始まった。 何も望んではならない生が。 死のみが待つ、生が。 next [戻る] |