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短篇集

 そこには同じく信号待ちの、おばあさんが居た。

「寒いですね」

 思わず、言葉を返す。

 おばあさんの言葉は聞き取りづらかったが、どうやら病院帰りである事を私に告げた。

 『いつもお世話になっとります』と言われ、私は笑顔で返すより無い。看護士さんか何かと勘違いされているのだろう。

 確かにこんな時間帯、こんな場所を若い人間がうろつく事など無いだろうから。

 信号が青になった。

 朝は雪が強かった事をおばあさんは言った。

 横断歩道を渡りながら、風邪引かんようにして下さいね、と私は言った。

 あんたも気をつけんさいよ、と返された。

 二言、三言、言葉を交わして。

 おばあさんと別れた。



 雪が降るほど、寒い日。

 何を求めて私はこんなに歩いたのだろう。

 人と出合った。

 それだけの事だけど。

 それに満足して、私は、道を引き返した。


 雪が降るほど、寒い日。

 言い知れぬ温かさを抱いて。




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あきゅろす。
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