RAPTORS 6 二人は林道を馬で走っていた。 滅多に人は通らない道だ。敵に動きを察知される事はまず無い。 何としても夜中までに天の陣に着きたい。 二人は馬を急がせていた。 縷紅の、捨て身と言ってもいい陽動作戦に、何としても報いたい。 地の陣の崩壊は時間の問題なのだ。 一刻も早く、大砲を崩壊せねばならない。 地の本当の目的に気付き、天が動揺すれば勝目はある。 ただし、大砲の崩壊を天が気にも止めなかったら―― 地に残る軍は消滅、黒鷹率いる本隊のみが残される可能性が高い。 それはこの戦全体での敗北も同然だ。本隊の人数では、反撃はまず不可能だろう。 「きっと上手く行くよ」 難しい顔をして馬を黙々と走らせ続ける隼に、緑葉は声を掛けた。 不安なのは自分も同じだ。 だが、支えると決めた。弱音は吐かない。 返事は返らない。 半ば予想していた事だ。再び二人で黙々と駆ける。 「…何で、地に協力するんだ?お前は」 「え?」 唐突に訊かれた問いに、緑葉は不意を突かれた。 「何故、俺と来る気になった?」 言葉は違うが、意味は同じ。 「何故って…お前が指名したんだろ…」 「成り行きで命は棄てれねぇよ、普通」 「そう…だけど」 「お前を生きて帰す努力はする。でも何も保証出来ない戦いだ、これは。…もし、成り行きだけだって言うんなら、まだ間に合う。逃げろ」 「それは出来ない」 「何故?」 「なぜ…って…」 説明出来ず、途方にくれる。 隼はそんな緑葉を、ふっと笑って告げた。 「俺は…お前がここまで来てくれた事だけで十分だ。今から命棄てに行く様なモンだからな。それに付き合う気持ちだけ受け取っておく。…お前は生きろ。まだ間に合うから…行けよ」 「嫌だ」 断固として拒否され、隼は驚く。 「俺は…そんなお前に付き合ってやりたいだけだ。それじゃ駄目か?動機不純か?覚悟が足りないか?」 逆に緑葉が問い詰めていた。 「…いや」 前を向き、笑いを噛み殺す。 「お前も馬鹿だな。俺なんかに同情しやがって」 「同情なんかじゃねぇよ。戦う人間として、お前の覚悟は見上げた物だと言っている」 「…へぇ?」 「その覚悟…見届けたいだけだ」 緑葉は、照れ隠しに精一杯ツンとした表情を作っている。 隼はそんな彼を、横目にチラリと見て、笑う。 「一人前になったモンだな…口だけは」 「なぁっ!?」 「縷紅に無茶な体当たりしてた頃が懐かしいな、全く」 ついこの間の事なのに。 一日は、生きる事に精一杯だと、こんなにも長いのだ。 それを隼は噛み締めている。 明日は無いかも知れない、一日。 「不思議だよな」 緑葉が言った。 “何が?”と隼は振り向く。 「地の戦の鍵を握るのは、天の俺と根のお前」 「俺は地の人間だ」 「言うと思った。…出の問題だよ。それが不思議だって言っただけ」 「まぁ…確かにな。でもこれは地だけの戦じゃない。三国――この世界を変える為の戦だ」 「世界を変える…か…」 「俺も最初は地の再建の為だけに動いてたんだけど…。アイツの目はそんな所見てなかった」 「アイツ?」 「黒鷹…って、そう言えばお前知らねぇか…。地の…」 “王位継承者だ”と言いかけて。 これを喋ると、黒鷹の不在の理由を話さねばならなくなる。 それが天の人間に知られる事は、絶対に許されない。 緑葉は、あくまでも“捕虜”なのだ。 不意に言葉を切らした隼を、緑葉は不思議そうに見る。 その視線を受けて、隼は唇を噛む。 自分の為に命を預けてくれる相手を、疑ってしまった。 だが――やはり話す訳にはいかない。 これからの為に。 「…何でもない。忘れてくれ」 緑葉は何か察してくれたらしく、何も訊かなかった。 日が落ちようとしている。 闇が、迫る。 [*前へ][次へ#] [戻る] |